≪二節;逃亡の果てに≫

 

 

〔そして、後に残されたもう一人の護衛将、マサラによって、虎口を脱し、落ち延びるアヱカ姫。

 

しかし、敵の追っ手は思いのほか早く、姫の国「テラ」陥落より三日後には、彼女達の背後にまで迫ってきていたのであります。〕

 

 

敵:・・・・・・。                                                                                                                                                      

敵:・・・・・・。

敵:・・・・・・。                                                                                                          

敵:・・・・・・。

 

 

マ:(ク・・・ッ!!国境まであと少しというのに!!)

 

 

敵:・・・・・。

 

 

マ:・・・。(どうやら行ったか・・・)

  姫様、あと少しのご辛抱でございます。

  この先・・・数里ほど行けば洞穴がありますので、そこで彼らをやり過ごしましょう。

 

ア:・・・・はい。

 

マ:・・・。

  (いけない・・・思いのほか、お体が衰弱しきっておられる・・・・無理もない、ここ二・三日、飲まず食わずなのだから・・・・)

 

 

〔自分の事より、まずは自分の主を思いやれる・・・とは、中々に出来ない事。

それほどまでに、この主従は、信頼関係を築き上げていたという事のようです。

 

そして・・・件(くだん)の洞穴に入り、まず自分と、自分の主上の体力を回復させようと、近くの川にて魚を獲るマサラ、

一見正しい選択のように思えたのですが・・・・これがいけなかったのです。

 

なぜなら・・・この時の彼女の姿を、敵の斥候の一人に見られていたのだから・・・・。〕

 

 

斥:(おっ!!あれは・・・)

  ・・・間違いない、手配中の、行き方知れずになった二人のうちの一人だ。

 

ピィ――――――!                             ピィ―――――――――――!!

 

 

マ:(な・・・っ、ふ、笛??!) はっ!!し、しまった!! ま・・・まだ動いてはいけなかったんだ・・・!!

  ひ―――姫様!!!

 

 

〔この斥候の呼び笛は、瞬く間に、近くまで野営をしていた敵の国「カルマ」の軍隊に届き、二ケ小隊が、この洞穴方面に向かったようです。

そしてその事を危惧し・・・かの洞穴まで足早に戻るマサラ―――・・・〕

 

 

マ:(姫・・・・!姫・・・っっ!!)

  はぁっ―――はぁっ―――!!

 

ア:ど、どうしたのです?マサラ・・・

マ:ひ、姫様・・・申し訳ございませんッ! このマサラ・・・一生の不覚をとりました!!

 

ア:え・・・・?

マ:あたいが・・・迂闊な行動をとったばっかりに・・・あたい達の居場所、知られちまったみたいなんです・・・。

 

ア:そ・・・そうです・・・・か。

マ:姫様・・・本当に申し訳ありませんッ!!

 

ア:良いのよ・・・マサラ。 わたくしも覚悟・・・・

 

マ:・・・・姫様・・・これを―――・・・

ア:え? こ・・・・これは!! お母様が常日頃つけていらした、テラの紋章のついたロザリオ!!

 

マ:姫様は、この先どうあっても生き延びてもらわねばなりません。

  姫様こそ、我らの唯一の希望の兆し・・・!!

  それに、今ここで、もし姫様が倒れるようなことであれば、今まで死んで逝った者達の安寧が・・・・約束されません!!

 

ア:で・・・でも・・・わたくしにそんな・・・

 

マ:いえ・・・アヱカ姫・・・よくお聞きください。

  あなた様は、我らが国、テラだけではなく、この大陸「ガルバディア」に介在する、数多の国々の希望でもあるのです。

  努々お間違えのなきよう・・・・。

 

ア:え・・・?? そ・・・それは、どういうことです?

 

マ:よろしいですか、アヱカ様・・・実は・・・・あなた様は―――・・・

 

 

〔しきりに自分の不手際を詫びる護衛のマサラ・・・

けれどアヱカは、そんな彼女の失態を何一つ責めることなどせず、逆に感謝の言葉を述べたのです。

 

けれど―――マサラにはある使命がありました。

自分が元々仕えていた、アヱカの父・・・すでに今回の騒動によって亡くなっているテラの国王から、ことある毎に云い遣っていた、

自分の兄と自分に課せられたある使命―――

 

小国のテラ―――

けれど自分たちのこの国に、希望の一粒種が授けられた・・・

その名がアヱカ―――・・・

 

その名の由来は、妻である妃が、アヱカを懐妊中に・・・ある日の夢の中で、「神」とも受け取れられなくもない存在の、「託宣」によってつけられた名前―――

 

そして同時にその夢で、アヱカが・・・これから到来するであろう乱世の、希望の光ともなることを仄めかされたのです。

 

でも・・・当の本人であるアヱカは知らない―――

いえ・・・それは、ご両親が、自分の愛娘がこれから背負うことになる重き荷を、「枷」とはしたくなかった配慮から来たからなのかもしれない・・・

けれどいつかは話さないといけない―――その契機が、22歳の誕生日を迎える今日だったら・・・?

 

それこそは「偶然」―――「偶然」の内の「必然」・・・

ならば、今回テラを襲ったカルマは、そのことを知っていたのか・・・

いや、もしかすると―――間諜(スパイ)をテラに放っておき、巧くその情報を聞き出せたからなのか・・・

 

それは憶測―――真相に繋がる証拠は何もないのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

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