<第百一章;ザイブの闘い(前編)>

 

≪一節;焦燥≫

 

キ:はい・・・わかりまし―――えっ? 今・・・“私たち”・・・

 

 

〔今―――何者かの命を受け、その返事をしたキリエ。

・・・ですが、彼女は自分の直属の上官の他に、その上官と比肩するもうひとりの高官の存在が一緒にいることを、

自分の上官からの ダイレクトコール(直接緊急連絡) によって知ることとなってしまったのです。

 

―――キリエは、つまるところ焦っていました。

それというのも、自分たちの国家の危機も、隣り合わせている国家の危機も未曾有のうちに処理しようとしている・・・

それも、自分たちが行動しようとしている以前に・・・

 

本来ならば、それらのことは自分たちが知り得ておき、また然るべくの措置を為さなければならないことなのに・・・

それを、自分たちより上級の将校にやらせたとあっては、問責の対象の一つともなりえるため、キリエは焦っていたのです。〕

 

 

ヒ:よぉよぉ―――キリエさんよぉ、一体なんだって軍議の最中に口笛なんか吹いたりしたんだい。

キ:ああ〜・・・いや、ちょっと―――私だってそう云う時だってあるのよ・・・

 

ヒ:しっかりしてくれよ? それより・・・各方面の分配が決まったぜ。

 

 

〔西部方面においての国境線の維持と治安を任された紫苑率いるパライソ軍は、元・ギ州であるコーリタニア城にその本陣を置き、

そこからラージャのワコウに駐屯するカルマ軍―――果てはコキュートスより南下してくるカルマ軍に対処するための軍議を開いていたのですが、

この時―――なぜかしらキリエが、不謹慎とも思えるような口笛を吹いてしまったため、一時中断を余儀なくされてしまった・・・

 

確かに―――まじめな話し合いをしているときに、キリエのこの所作は不謹慎の何物でもなかったわけなのですが、

ここで一旦空気を変えるために指揮官である紫苑は軍議を中断し、一時的な休息をとったのです。

 

しかし・・・この時のキリエの所作とは―――彼女の所有するグノーシスが、ヱリヤからのダイレクトコールを受理し、

その時のアラームを誤魔化すための手段・・・に、過ぎなかったのです。

 

けれど、この自分の所作に責任を感じたキリエは、自主的に軍議から席を外し、結果報告だけをベイガンから聞くことにしたのです。

 

そして、軍議の結果をベイガンより聞くところによると―――

紫苑率いる一軍は、旧・ガク州―――テキヨウ道方面よりカルマ本国を牽制・・・

コウ率いる一軍は、本陣ともなるコーリタニの城からワコウのカルマ軍を牽制・・・

残るキリエとベイガン―――将軍の一人を遊軍的扱いとし、どちらの方面にも対処できるよう分配させたのです。

 

しかし・・・ある事実を知っているキリエは、指揮官である紫苑にある相談を持ちかけ―――・・・〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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