<第百二章;ザイブの戦い(後編)>

 

≪一節;“蒼龍”再び・・・≫

 

 

〔キリエ一人で何が出来ると云うのか―――・・・

確かに、彼女の勲功は、以前まで勤めていた旧フ国・ガク州が、州司馬であったキリエの奮闘のお陰もあって陥落しなかったことから、認められるところがあるけれど・・・

喩えそうだとは云っても、何の自信を持って単騎で本陣コーリタニ城へと戻れたものか・・・

その事が唯一つの、紫苑の疑問だったのです。

 

けれども・・・紫苑は知らない―――いや、紫苑だけに拘わらず、西部方面の戦線に出ているパライソの諸将も・・・また、カルマの将兵も・・・

ましてやラージャの将兵たちも知らない―――・・・

 

ただ、そのことを知っているのは、以前からキリエに従っている配下の副将である人物、一人のみ―――・・・

 

 

そして―――先駈けて戦線から離脱した 左将軍 は、誰彼知られることのない処である存在に変化<トランスフォーム>したのです。

 

けれども・・・それでも一歩遅かったのでした。〕

 

 

キ:(ああっ―――コーリタニの兵糧庫が・・・西部方面の抹糧が・・・!!)

  おのれ・・・このまま彼奴らの思い通りにさせてなるものか―――!!

 

 

〔一方その頃―――コーリタニ城を守るコウは、突如急襲してきたカルマの高機動兵団の対応に追われていました・・・〕

 

 

コ:皆の者―――総ての力を持って迎撃にあたれ!

  おそらく敵は、軍の要ともなる兵糧庫を狙ってくるぞ!!

  (それにしても・・・なんと用意周到な、軍の主力が出計らったスキを襲い来るとは・・・)

グオォォン・・・≫

  ―――ん・・・?今の嘶き・・・ よもやあれは―――蒼龍?!!

  なんたることか! このような一大事に、蒼龍の騎士まで罷(まか)り出ようとは!!

 

 

〔背に翼の生えた有翼魔獣――― グリフォン ヒポクリフ スフィンクス ・・・と云ったような種は、地表の高低差に関係なく移動ができ、

加えて高い魔力を兼ね備えていたことから、人類から見れば手強い敵とも云えていました。

 

その中でも一際目を惹く魔獣・・・ルシファークロウ―――

 

この魔獣は悪魔の神の流した血より生まれたとされ、体内に流れる血は灼熱の炎の中にいたとしても決して上昇(あ)がる事なき氷のような冷たさだとか・・・

性格も獰猛であり、喩え同じ魔族だとしてもオークやゴブリンなどは餌と間違えられ捕食の対象にもなっているとか。

 

そんな魔獣の背に跨る、この兵団を指揮する者は―――・・・〕

 

 

ノ:(ノエル;七魔将ワグナスの部下であったが、主の死亡と共に現在は同じ七魔将であるぺリアスの配下になっている。)

  フハハハ―――! さあ〜思いのたけ薙ぎ払え・・・奪え・・・蹂躙しろ〜!!

  主力が出払い、手薄になったこの城にある兵糧庫を壊滅状態にまで追い込むのだ!!

 

 

〔総てはカルマの思惑通りでした。

おそらく・・・ラージャの残存勢力を掃討する―――と云うのは、虚言ではないにしろ、そのことを流言させることで、そのことを信じやすくさせ、

この流言に釣られて、コーリタニに駐留しているパライソ西部方面軍主力をおびき出すことに成功した・・・

 

―――にしても、以前にもこの戦術はどこかで・・・?

 

以前には 暴 のみであった軍が、今度ばかりは 策 を用い始めている―――・・・

しかもその 策 のあり方が、キリエ自身がよく知っている人物の手法に非常に似ている―――・・・

 

そのことにキリエは一抹の不安を覚えてくるのですが、現実としては燃え盛っている自分たちの食料があるわけであり・・・〕

 

 

キ:(このままではいけない・・・よし、ここは―――)

 

 

〔“コールレイン”―――降雨を促せる龍の咆哮(おたけ)び・・・

 

そこで蒼龍は、天を仰ぎ、哭きました・・・

すると―――すぐさま雲行きが怪しくなり、真っ黒な雨雲が空を覆ったかと思うと、一滴・・・二滴・・・ついには雨脚が強まっていくこととなり、

あれだけ燃え盛っていた兵糧庫の火も、鎮火状態になっていったのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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