<第百四章;クロスクリミナル戦役(その二)>
≪一節;料理人(コック)と女給仕(メイド)≫
〔ラインベックとマルトワにて展開されていた戦闘が終わり、今は一時的な平穏を保っていたフィダック城に・・・
この城はある者達を迎え入れようとしていたのです。
或る日―――フィダック城正面門にて、シャクラディア方面より来たと云う二人の若い男女の姿が・・・〕
誰:すぃませぇ〜ん―――・・・お邪魔しまぁ・・・
セ:―――はい?なんでしょう・・・どなたかお探しですか。
誰:ああ―――いえ・・・そうじゃなくてですねぇ・・・
この城で給仕と料理人雇ってもらえないものか―――・・・と。
セ:―――ああ、求職ですか。 ちょっとお待ちになって・・・
ねぇ―――ちょっと?! ここに給仕と料理人雇って欲しいと云う人が来てるんだけれど・・・
リ:えっ? ・・・いいんじゃない―――別に、私は構わないけど。
イ:私も構いません、ただし一つ条件が―――ここ昨今は食糧事情が厳しいので、なるべく食材は無駄に使わないように。
給:(給仕;いわゆるメイドの格好をした女性。 推定年齢は20歳前後・・・どうやら一緒に来ている料理人の姉貴分のよう)
あっ、そう云うことでしたらうちのは心配ござんせんよ。 ・・・なあ?
料:(料理人;給仕と一緒に来ている男性。 上背は給仕よりあるが、給仕より前面に出てこないことからこちらの方が年下と見える。)
ええ―――永い間上の方に扱(しご)か・・・いえ、仕込まれましたから。
それでは、許可も下りましたことですし、少々お時間の方を・・・
リ:―――どこへ行こうとしているの?
料:これから、皆様方のお夕食のメニューに必要な食材を仕入れに・・・ですよ。
イ:―――ですが、ここにはこちら方面の食を一手に担えるだけの材料がひと揃えしてあるのですよ。
料:フフ―――・・・先ほどあなた様は仰っていたではありませんか。
『食糧事情が厳しいので、なるべく食材は無駄に使わないように。』・・・と。
ですから私は、大自然からの恵みを少しばかり分けて頂こうとしているのです。
〔その二人とも、一見すれば姉弟かと思われるくらいよく似ていました。
碧い眸に―――藍色の髪―――筋の通った鼻に、薄い唇・・・
どちらかと云えば弟分の方が上背があり、よく見れば甘いマスクをしていた―――・・・
それに、料理人(コック)である弟分の方は、この国の食糧事情をよろしく判っていたらしく、
今夕の食事のメニューを作るにしても、フィダック城に備蓄してある食材だけではなく、野に出て季節の菜を分けてもらおうとしていたのです。
そしてその日の夕刻―――将兵に振る舞われた品の数々は、畑で採れるような菜ではなく、
野にて自生する 蕨(わらび) 榎(えのき) 然薯(ねんじょ/芋の一種か) 胡桃(くるみ) ・・・と云ったような、珍しいものばかり―――
それに、この時のメインの膳と云うのが・・・〕
リ:うわ・・・これ―――って・・・
料:―――はい、ショウリョウアユの活け造りにございます。
セ:それにしても・・・昼間に採った生物(なまもの)を―――
イ:・・・生簀(いけす)―――ですね?
料:はい―――普段は養殖用に仕立ててあるものなのですが、今回は捕獲した食材を一時的に活かし存える場所にさせたのです。
〔食糧難一歩手前―――と云うのに、それすらも忘れてしまいそうになる、一晩限りの豪勢な膳の品の数々・・・
しかもそのほとんどは自然の恩恵に他ならなかったのです。
そんなモノが、指揮官であるイセリアや将校であるリリア・セシル・ミルディン・ギルダス達だけに拘わらず、末端の兵卒まで振る舞われた―――
自分たちが備蓄している食材のみに頼らず、自然に恩恵を求めた―――
だからこそここで闘おうとする者達は、今日も明日も国や民たちを護るために立ち上がることが出来るのです。〕