≪三節;未明の襲撃者≫
〔そこではひと騒動がありました―――
突如襲い来た、眸を爛々と光らせ―――血に飢えた眼(まなこ)を持つ、不死の魔物・・・
その魔物の急襲を、魔物の砦が受け―――全滅をした・・・
そして夜が明け、斥候に出していた兵士の意外すぎる報告で、寝惚けていた頭が覚め上がったイセリアは、
緊急にフィダックに駐屯している主だった将校をたたき起し、この報告について述べたのです。〕
リ:ふわぁ~あぁ・・・なによ―――こんな朝早くから・・・ふぁ・・・
セ:顔もまだ洗っていないのに―――・・・
イ:そんなことも云っていられなくなるわよ―――
ギ:何があったと云うんだ―――イセリア・・・
イ:ギルダス、ミルディンも聞いて―――今朝判明したことなんだけど・・・フィダックから見えるあのカルマの砦、将も兵士も全滅したそうよ。
リ:・・・・・えぇ~っ?! い、今、なんだって―――??!
セ:カルマの砦が・・・何者かの襲撃に遭った―――?
ギ:おいおい―――それって逆なんじゃないのか。
イ:ですが・・・ここから見える目立った建造物と云えば、あのカルマの砦しかありません。
ミ:(・・・もしや―――)
リ:・・・もしかして、あっち側(西部戦線)の蒼龍の騎士が出っ張ってきたんじゃ―――・・・
イ:その可能性―――私も考えました・・・が・・・
セ:―――違うと云うの?
イ:斥候によると、あの砦の敵兵の死体の血は、総て抜かれていたそうです。
もしこれが蒼龍の仕業とでも云うのなら、彼の存在のまた新たな可能性を憂慮しなくてはなりませんが・・・
〔イセリアが斥候より見聞した異聞こそ、何者かに襲われ生血を抜かれた―――敵兵の存在・・・
でも、もしこれが西部方面に頻繁に出没している蒼龍の騎士の仕業だとすれば、
あの怪異の騎士の、また新たな可能性を考慮しなくてはならなくなるのです。
けれど、このイセリアの異聞を今まで黙って聞いていたミルディンは―――〕
ミ:いや―――それはないと思う。
リ:えっ? ミルディン・・・どうしてそんなことが云えるの―――
ミ:ギルダス―――私たちは知っているはずです。
そんなことが出来る存在を・・・
ギ:なっ―――・・・ミルディン、お前まさか、 城主 のことを云っているのか―――?
セ: 城主 ・・・―――と云うことは、まさかあの・・・
イ:・・・ヴァルドノフスク城主――― 一説によれば彼の存在は ヴァンパイア だとか・・・
ミ:そうです―――それに、元々私たちの職の成り立ちは、彼らを退けるために設立されたのだとか・・・
ですが―――今般、その 城主 が目覚めた・・・という噂も立ってはいない―――
ギ:・・・すると、あいつか―――
ミ:おそらくは―――・・・
リ:な―――なによぉ、あいつ・・・って、二人とも人が悪いわ、なんだか私達だけ・・・
ミ:私たちの云っている あいつ とは、 城主 とほぼ同等の実力を兼ね備えた、“附き随い護る者”<エクスワイヤー>―――
常に大型の魔獣と行動を供にしていることから、私たちの間では “魔獣の乗り手”<ビーストライダー> と呼んで、一層の注意を払っています。
ギ:しかもそのヴァンパイア―――魔族の中でも位が高く、 子爵 とも呼ばれているそうだ。
そいつが、こんな近くに現れていたとはなあ―――・・・
〔元・クーナのホワイトナイツである彼らの一言は、現場を緊張させるのに十分でした。
ガルパディア大陸東側にて、よろしく取り沙汰されるある伝承―――・・・
二つの列強、 クーナ ハイネスブルグ を侵食するかのように存在しうる、 ヴァルドノフスクの杜 ―――
そこに住まうと云う―――或る主の伝説・・・
人間よりも長命で、すでに桁外れの時を生き永らえている―――美しく・・・気高い種族・・・ ヴァンパイア ・・・
その種族の長、 城主 ではないにしろ、 子爵 と呼ばれる次席の実力を持っている者が、
今回自分たちが駐留するフィダック近辺に現れたと云う―――・・・
けれど、彼ら・・・ ビーストライダー が襲ったのは、敵方であるカルマの砦であると云う―――・・・
西部方面の 蒼龍の騎士 と云い―――東部方面の ビーストライダー と云い・・・
なぜ彼らは、敢えて同族とも云えるカルマの兵士ばかり襲っているのか―――
そこには尽きぬ興味と云うものがあったことでしょう。〕