<第百五章;クロスクリミナル戦役(その三)>
≪一節;胸にある疑問を・・・≫
〔昨夜の一件―――魔を狩る人外の者の実態を知るに至り、セシルは気も漫(そぞ)ろでした。
けれども彼女は慎重でした、そんな重大なことを知り得ても、自分自身で真相を確かめないことには得心がいかない・・・
だとしても、そうと判ったところでどうすると云うのだろう―――・・・
そんな疑問を頭に抱えながら、セシルは給仕(メイド)のサヤを観察するのです。
すると、そんなことを知っているのか―――当の本人は・・・〕
サ:ふわぁぁ〜・・・ぁあん―――なんだか昨日の夜は、はっちゃけ過ぎちゃって眠いのなんのって〜・・・
マ:サヤ様―――こちらを10番テーブルに・・・
サ:・・・お前はタフだねぇ〜私ゃ羨ましいよ―――
〔別に、普段と変わったところは見受けられない―――いつもの・・・普段通り・・・
給仕(メイド)は昼間だと云うのに眠たそうにしており、弟分の料理人(コック)に尻を叩かれている。
それに足元も覚束無(おぼつかな)く、今もまた足を滑らせて折角の料理を台無しに・・・
しかも兵士の顔面にブチ撒けるなど、ドジっ子ぶりにも磨きをかけている・・・
そんな給仕(メイド)の姿を、目で追っていたところに・・・〕
リ:どうしたのよセシル―――サヤさんばっかり目で追っちゃって・・・
セ:・・・え? ああ―――うん・・・
リ:あの人のドジっ子ぶりも、ある意味徹底してるわよね。
私もこの前、頭の上からラーメンぶっかけられちゃったけど、あの人の・・・泣きそうになりながら謝っているのを見ちゃうと、怒る気も失せちゃって・・・
〔―――ああ、そんなこともあったっけ・・・
そう、確かにあの人は、今もそうだけど自分が粗相をして他人に迷惑をかけたときには、全身全霊をもって(つまり泣きそうになりながら)謝ってくる・・・
それが妙に滑稽で―――また可愛らしくって・・・
それに―――たった一度だけ見たことがある・・・
それは、私たち人間がこの食堂にある食器を、誤って地面に落として割ってしまった時のこと・・・
あの人は『仕方がないか』―――の一言で済ませてしまった・・・
自分が粗相をしてしまった時には、平身低頭にして謝っているのに―――私たちが過ちを犯したときには 気にしなくていいよ で済ませてくれる・・・
―――それは、人間が好きだから・・・?
そうだ・・・ここは一つ、あの言葉を云って試してみるしかない―――
セシルは、一番疑問としているところがあり、そのコトの真意を確かめるために、給仕(メイド)が自分たちの横を通り過ぎようとしたときに、あの言葉・・・
――右将軍――
・・・と、つぶやいてみたのです。
すると―――・・・〕
リ:あっ―――どうしたの、サヤさん・・・
サ:あぁ・・・いえ・・・なんでも・・・―――
〔自分が発した言葉に反応するかのように、給仕(メイド)は持っていたグラスを床に落としてしまった・・・
しかも、その破片を持つ手も、動揺をしているからなのか・・・心なしか震えているようにも見える・・・
間違いない―――やはりこの人は・・・
けれど、それを知ったところで私はどうすると云うのだろう―――
このドジっ子メイドが、実はヴァンパイアであり・・・子爵と呼ばれる者にして、俄かにこちらで話題持ちきりとなっている ビーストライダー であると云う事を、
集まっている皆の前で公表して―――・・・違う、私が求めているのはそんなことじゃない・・・
セシルは、真実を知ってしまい、そのことに苦悩をし始めました。
そしてそれはこちらも同じく―――・・・〕
マ:いかがなされたのです・・・サヤ様。
サ:・・・ 花 の奴が、私たちのことを嗅ぎつけたかもしれない―――
マ:(!!) ・・・いかがいたしましょう―――
サ:どうしようもないだろうが―――単に、私の聞き違いかもしれない・・・
それに、今夜からは 朔 に近づく・・・当分は夜の外出は禁止だ。
〔どこか・・・気分が悪そうに顔色が褪め上がっていた―――
そんな自分の主に、マダラは気遣う言葉をかけてやるのですが・・・
サヤからは一言―――自分たちの正体が花の将に知られてしまった・・・かも知れない―――
それを自分の聞き違いかもしれないと判断し、しばらくは様子を見ることに徹したのです。
それと併せて、今夜からは月齢がゼロに近づく頃合いだとし、月が満ちる次の半月(はんげつ)まで、夜の外出は控えめとすることにしたのです。〕