≪二節;或る疑惑≫
〔けれども、そんなあちら側の都合など知る由もないセシルは―――今宵も夜の見回りに出掛け、
ビーストライダーを見つけ次第その真意を確かめようとしていたのです。
しかし―――この時は空振りに終わってしまった・・・次の日も、またその次の日も。
こんな仲間の一人の奇妙な行動を知るところとなったイセリアは、至急にセシルを呼び出し、
どうして真夜中と云う時間帯に、それも少人数しか伴わないで見回りをしているのかを訊いたのです。
すると―――・・・〕
セ:・・・それは―――ビーストライダーに会おうと思って・・・
イ:あの存在に―――? ・・・会ってどうしようとしていたのです。
まさか、話し合いをしよう・・・とでも? こちらの言い分が通じる相手ならばいいのですが―――・・・
セ:通じる・・・きっと、通じるわよ・・・
イ:・・・随分と、知ったようなことを云うものですね。
セ:ええ―――見てきたもの・・・実際にこの眼(まなこ)で!
あの存在は私たち人間を愛しているからこそ、カルマを狩っている―――そのことは、西部方面の蒼龍も同じだって!
イ:―――蒼龍も?!
セ:ええ・・・そうよ、それにね、だったら・・・パライソの 左将軍 に、 右将軍 って、誰が就いているのか知っている?
イ:―――確かその将軍職は・・・
セ:―――でしょう?私たちでさえ知らないのよ、自分たちの国の身近な人間のことが・・・
イ:・・・そう云えば―――何も空位なのは、その二つの将軍職に限ったことではありませんよね。
セ:えっ―――?
イ:事実上の最高位の将軍職である、 驃騎 と 車騎 ―――その二つも、これまでに誰が就くのかは明らかとされてはいません。
ならば・・・せめて婀陀那様に、その将軍職のどちらかに就かせては―――と、女皇陛下に奏上をしたことがあるのですが・・・
そうしたらあの方―――なんと云われたと思います。
セ:なんて・・・云われたの―――
イ:『一つの将軍職に、二人目は必要はない―――そのことならば別に便宜を図るから。』・・・と、だけ。
その後、婀陀那様は現在の職に収まりました。
セ:―――大将軍・・・あの方が要職に就かれたのにはそんな経緯が・・・
それにしても待って? だとしたなら、どうして『一つの将軍職に、二人目は必要はない―――』・・・?
イ:そのことを、陛下の言葉通りに捉えるのならば、もうすでに驃騎と車騎の将軍職には何者かが就いている・・・と云うことになりますね。
まあ・・・あの時には私もさして気にはかけてはいませんでしたが―――なるほど、こうしてみればあなたの云うことも一理あるかも知れませんね。
〔イセリアも一つ疑問に感じていたこと―――・・・同僚のセシルも抱いていた疑問の一つ、パライソの左・右の両将軍は誰が就いているのか・・・
それと同様である、驃騎・車騎の両将軍には誰が就いているのか―――・・・
その疑問を解くカギは、女皇アヱカの応答(こた)えにあるに違いはなかったのです。
そう・・・この四つの将軍職とも、すでに何者かが就いていて、定員であるために二人目は必要はない―――
それに、セシルが抱く最大の疑問点でもある、ビーストライターのあの言葉―――・・・
――人間を愛するが故に、これを護る――
自分たち人間も、敵である魔物も、その双方の見解が一致していること・・・
人間の天敵は魔物―――それがどうして、あたら 愛する などと云うような表現をするものだろうか・・・
だとするのなら、そのような意識を誰から植え付けられたのか―――・・・
疑問はさらに深まりゆくばかりだったのです。〕