≪二節;紫苑の焦り≫

 

 

〔そのことを・・・紫苑の覚悟を、改めて紫苑自身の言葉で聞いたノブシゲとチカラは、あとは黙って作戦に従うしかありませんでした。

 

そして―――かの拠点を奪取するため、“疾風の軍団”の異名をとる紫苑の指揮する軍が戦場を先駆けたのです。〕

 

 

紫:―――これより、私たちはコヤリを制圧するため出陣しますが、まづ攻め手を一方だけに集中させて、そのスキに別動隊を持って砦を制圧したいと思います。

  このことについての質問は―――・・・

 

ヒ:おいおい・・・なんだかえらく単純な作戦だよなあ〜―――巧く行くもんかね。

紫:これ―――そこ、意見があるのなら、ちゃんと大きな声で云いなさい。

 

ヒ:い―――? いやぁ・・・そのぉ・・・なんだかなあ、随分と単純な策だけどよう、成功させることが出来んのかい。

紫:成功するのか―――ではなく、成功させなければ意味がないのです。

  それともあなたは、この策に代わるモノを持ち合わせているのですか。

 

ヒ:いや・・・その〜〜・・・ありません。

 

紫:それでは―――いざ駈けましょう、戦場を!!

 

 

〔誰しもが敗けるために戦をするのではない―――そんなことは軍人である彼ら全員が判り切っていることでした。

 

けれども、この時紫苑が立てた作戦は、あまり頭脳戦が得意ではないベイガンでさえも単純に映りました。

 

一方で騒ぎ立て―――相手がそちらに気を取られているスキに砦を制圧する・・・

 

そんなことが単純であることは、ベイガンから指摘を受けるまでもなく、紫苑は判っていたのです。

 

―――だとしても、単純である作戦行動を起こさなければならなかった一因の一つとして、

現状としては、策略で動かせられるだけの人員と、それを動かせられるだけの糧が足りなかった・・・

第一、   今回の作戦行動に関しても、全員腹三分目程度でこなさなければならなかったのです。

 

ならばなぜ、こんな無謀とも思える作戦行動を、キリエが止めようとはしなかったのか―――

それは、薄々ながら紫苑の真の意図に気付いていたからなのかもしれません。

 

 

ともあれ―――敵砦制圧のための軍は出撃しました。〕

 

 

紫:コウ殿率いる一軍は、このまま直進を続け―――砦正面にて戦闘を開始されてください。

  キリエ殿率いる一軍も、目的は正面にあり―――と、相手方の注意をよく引き付けておいてください。

  そして、私率いる別動の一軍は、間道より砦裏手口に回り、物資を鹵獲いたします。

 

 

〔やはり―――と、キリエは思いました。

そう、紫苑の真の目的は、この砦自体の制圧ではなく、元はラージャの兵糧庫でもあった砦に備蓄されている物資を奪取することにあったのです。

しかしその行為は、あたら盗賊どものそれと似通っていたことでもあり、気高きヴェルノアの軍人である紫苑が、この手段に踏み切らざるを得なかったのも、

相当な覚悟があり、また厳しい軍の運営にも係わっていたことだと、キリエは感じたのです。

 

 

しかし―――・・・〕

 

 

コ:この砦を何としても陥とすのだ―――かかれえ〜〜!!

キ:我々はコウ殿を援護する―――!

 

 

〔砦攻略の滑り出しは順調―――敵軍も兵糧庫の一つを陥されると敵わないと見たのか、程度の抗戦を試みるのです。

 

―――が・・・この砦の主力部隊とも云うべき、兵士と将は釣り出されてはおらず・・・〕

 

 

キ:(むっ―――まさか、すでに看破されているのでは・・・)

  ベイガン―――私に付いてきて・・・紫苑殿を救出します!

 

 

〔ベイガンのような剛勇一辺倒で鳴らす武将でも判る、今回の作戦行動の展開・・・

そのようなことはよろしくカルマの将兵でも判っていたことであり、それでもこの作戦を強行しようとした紫苑は、

キリエの読み通り―――最悪の事態・・・砦の守将に待ち受けられていたのです。

 

けれども、紫苑はそのことも想定内に置いていたものと見え、自身の剣 フランヴェルジュ・ファフニール を抜いて交戦に応じたのです。

 

でも―――紫苑ですらそこまで読み切れなかった事態・・・そう、次第にカルマ兵の数が増えてきている・・・

―――と、云う事は・・・〕

 

 

キ:(増援―――まさか、この事態を見越して狼煙台を・・・)

  くっ―――迂闊! コウ殿―――この作戦は失敗です! ここは撤収を!!

 

コ:―――しかし、それでは紫苑殿が・・・

 

キ:・・・彼女は、この私が命を賭しても必ず連れ戻します、ですから早期撤収を―――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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