≪三節;予期せぬ援軍≫

 

 

〔カルマの対応が存外にも早かった―――そのことをキリエは、自分たちの拠点の一つに異変があったとき、

そのことを素早く知らせるために、烽火台(のろしだい)と云うものを事前に作らせておいたのではないかとしたのです。

 

そしてそのことは、まさしく敵の思う壷となってしまいました。

 

近いうちに必ずやこの砦を襲い来るものと予測し、もし襲撃があったとしても容易に全軍を出撃させず、

様子見程度に少数を繰り出し・・・近くの拠点に襲撃があった旨の烽火(のろし)を上げ、圧倒的な兵力差で打ち破り敵兵全員を捕虜とする・・・

 

―――ただ、彼らは待ってさえいれば良かったのです。

 

 

けれども、ここに紫苑や守将たち―――交戦している者が思いもしていなかった出来事が起きてしまったのです。〕

 

 

紫:くうぅっ―――増援・・・ 全員に告ぐ―――ここは撤収を!!

守:ぬははは―――させるかぁ! おまいたちは全員ワイらの捕虜となり、男どもは牛馬のように働き、女どもはワイらの・・・グフフフ・・・

 

紫:むうぅっ―――なんて厭らしい笑みを・・・この紫苑のファフニールがこの手に輝く限り、お前たちの思い通りになるものと思わぬがいい―――!

守:ぬぅわ〜っはっはっは―――! 笑わせやがる・・・

  それにしてもおまいたちの計略を見破った奴、まさしく奴の云っていた通りとなったぜ―――

 

紫:―――なんだと?私たちの計を見破った者・・・? 何者だ―――そいつは!

守:そのようなこと―――おまいが知らんでもよいことよ・・・さあ〜ワイの足元に跪けぇ〜い!!

 

 

〔この時、紫苑が一様にして奇妙に感じたこと・・・確かに、敵勢力の砦の一つを攻略しようと云うのだから、抵抗があって然るべき―――

そこまでは紫苑も読めていました・・・が、それ以上の敵兵の増援があったとき、

味方の誰かが敵側に奔り、今回の作戦行動のことの情報の漏洩があったのでは―――とさえ感じていたのですが・・・

 

ところが―――・・・〕

 

――大変だああ〜〜 兵糧庫に火がついたぞ〜〜!――

――いや、兵糧庫だけじゃねぇ、砦全体に火が〜〜!!――

 

守:な―――なんだとぅ?! ええ〜い、忌々しい! 何してやがる早く火を消さんか―――!

 

紫:今だ―――・・・全員撤退!!

 

守:あっ、しまった―――逃すな、追えぇ〜〜!!

 

 

〔突如として―――この砦に“不審火アリ”との報告に、敵将のみならず兵士も浮き足立ち、

相手方のこのスキを見逃さなかった紫苑は、すぐさま―――まさに“疾風”の如く撤収を開始し始めたのです。

 

その前に・・・一体この砦に何者が火を―――?!〕

 

 

チ:紫苑殿―――こちらにござる!

紫:チカラ殿・・・するとあなた方が―――

 

チ:フフッ・・・小火(ぼや)とは云えど、一応は不審火―――それにここは元々手前たちの砦にございます。

ノ:そういうことだ―――あたら奴らにいい様に使われるいわれはない。

  それに、元々それがしたちの砦―――と、云う事は、抜け道などにも通じておる。

 

  ともかくも、今回の物資鹵獲の件は見直すと致そう。

 

紫:そう・・・気付いていたのですか―――今回の作戦が、この砦自体を制圧することではないと云う事を・・・

 

 

〔今回のコヤリ制圧作戦には参加をしていなかったラージャの将校二人が、この砦に顔を見せていました。

 

けれどもそれは、今回紫苑が窮地に陥ることを前提にしていたかのようであり、敵を攪乱させ脱出の機会を窺わせていたのです。

 

それから―――ノブシゲとチカラの助力を得て、砦からの撤退を試みようとしたものの、

敵も然ることながら、追撃の手を緩めることなく―――追いついてきたのです。

 

そんなところに―――・・・〕

 

 

キ:(あれは・・・)―――ベイガン! 私は紫苑卿を逃しますから、あなたは殿(しんがり)を務めて!

ヒ:ヘッ―――へへ、待ってました、そのお言葉!

  やいやい―――ここからはこのオレが相手をしてやる、覚悟しやがれ!!

 

 

〔カルマ追撃隊より後方から、紫苑の窮地を感知していたキリエが、准将であるベイガンを伴って現れ、

自分は紫苑とノブシゲ・チカラを逃がすためだけを念頭に置き、ベイガンには押し寄せてくるカルマを押し留めさせるよう殿(しんがり)を務めさせたのです。

 

この、キリエの意図としていたものは、ものの見事にはまり、辛くも紫苑たちは虎口を脱することが出来たのでした。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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