≪五節;いたいけな訪問者≫
〔ともあれ紫苑は、これからはラージャの二人も西部戦線に協力をしてもらうため、各々に任務を与えたのです。〕
紫:それではこれより、あなた方にもこちらの戦線に協力をしてもらうこととします。
では―――まづ・・・ノブシゲ殿には、南方方面の支援に・・・そうですね、とりあえずはカムロポリスでの展開をお願いいたします。
次に―――チカラ殿には、北方からの圧力に抗するためネブラスカにての協力をお願いいたします。
〔この時の紫苑の戦略は、西部戦線においても重要である 北と南 に戦力を割いたのです。
けれどもこれは完全に二つに割いたわけではなく、残る主だった将・・・コウとキリエには遊撃隊となってもらい、
カムロポリス・ネブラスカ―――どちらかの戦線が危ぶまれた時、二人のうちのどちらかが援護のための後詰にさせることにしたのです。
そして―――ノブシゲがカムロポリスの地に赴いた当初から、その地は手荒い洗礼を受けていました。〕
ノ:こいつは着任早々手厚いもてなしぶりだな―――・・・
各隊被害状況を報告、加えて使いの者は至急コーリタニとハイヌ(旧・シン州城)に救援の要請に行ってくれ―――
〔ノブシゲは凡愚の将ではない―――その証拠に、着任早々にしてカルマよりの猛攻に晒されているカムロポリスの砦を、その見事な采配ぶりから救ったのです。
それでは、ノブシゲがこの地方に遣わされたのは、采配の腕を見込まれたから・・・?
一部にはそのこともあったのでしょうが、紫苑がノブシゲをその地に遣わせた大きな理由の一つに、
カムロポリスはラージャの隠れ里ともなっているコンゴウに程近く、残るラージャ勢を殲滅させようとして襲い来るカルマを遮るため・・・
また、スキあらば攻勢に打って出るための格好の地でもあったのです。
とは云え―――今はその真逆・・・攻め寄せるカルマはスキさえ見せず、それどころか怒涛の勢いで攻め立てて来たのです。
丁度そんな折・・・この砦は、ある存在を受け入れたのです。
ノブシゲがカムロポリスに着任して三日が経った頃、ようやく要請に出していたコーリタニからの援軍が、指揮をするコウを伴って到着したのです。
そんなときでした・・・ふと―――この砦に、全くと云っていいほど不釣り合いな、いたいけな存在が舞い込んできたのは・・・
鼻を衝くような―――酸鼻な血の匂い・・・
未だ死に切れぬ者の呻き声がコダマする―――・・・
そんな戦場に・・・
華奢―――かつ、可憐な少女が・・・〕
少:あの―――・・・もし・・・
兵:あん? なんだお嬢ちゃん・・・何をしにここまで来たのか知らないが、ここはお嬢ちゃんなんかが来ていいところじゃないぜ―――
少:あっ―――いえ、違うんです。
私は、皇国の然ある将軍様に仕える者で、その将軍様からの言伝(ことづて)を授かってここまで来たのです。
兵:はぁん―――? すってと・・・援軍かい! いやぁ〜だけどなあ・・・
兵:ああ―――先ほどコーリタニよりの援軍も届いたばっかだし・・・
兵:けどよ・・・あれだけで足りるものとは思えないしなぁ―――・・・そこへこの援軍かぁ・・・
兵:そうだなあ―――多いに越したことはないが、おいらたちが食べるもんが少なくなっちまうのは、頂けねえよなぁ・・・
〔それは―――少女・・・ 一人の、少女―――なのでした。
けれどもここは戦場・・・それゆえ不釣り合いなこの少女に、これまでに幾度となく死線を乗り越えてきた歴戦の猛者たちは、
この・・・いづこかの将軍様の使いの少女に、ありがたいと思う気持ちの半面、少女のお使いが徒労に終わってしまうかもしれないともしていたのです。
その様子を・・・ただ―――じっと、見つめる少女・・・
すると―――・・・〕
ノ:おい―――どうしたのだ。
兵:あ―――ノブシゲ様、いえ実は・・・
ノ:ほほう―――これは可愛らしい伝令殿だな。
しかし・・・皇国からすでに援軍が派遣されておったとは・・・
―――もしかすると、紫苑殿が機転を利かせてくれたのやもしれんなぁ・・・
少:どうも初めまして―――私はとある将軍様の下でご奉公をしているヱリヤと申す者です。
ノ:ふぅん・・・ヱリヤ―――ちゃんね・・・。
ところで、主様である将軍様・・・って、誰なんだね。
ヱ:え・・・と―――私もその方の下で奉公をさせてもらって日が浅いのですが、周囲(まわ)りの方からは 洞主様 とか、 ゾハルの主 とも―――
ノ:なんだと―――? 洞主にゾハルの主?!! いや・・・でも、まさか―――な・・・
ヱ:ご不審に思われるのでしたら、皇国で一番偉い人から頂いた親書を私が持っていなさい・・・って―――
・・・こちらになります。
〔やおらするとカムロポリスの総責任者となったノブシゲがこの愛らしい少女の前に立ち、どこの将軍からの使いの者であるかを問い質したのです。
するとその少女の主の驚くべき実態が知れるところとなったのです。
それは・・・自分たちの故国でも畏れる伝説の主ともなっている、 ゾハルの主 ―――
その存在が、直々にパライソの女皇の要請を受け、これから西部戦線に参入してくることを、いたいけな伝令の口から聞くところとなり、
その場は一種異様な緊張に包まれることとなったのです。〕