<第百八章;戦戟の果てに見えてくるもの・・・>
≪一節;届かぬ兵糧≫
〔西部戦線に現れた――― 少女 ・・・
東部戦線に現れた――― 女性 ・・・
而(しか)してその実態とは、この度パライソ女皇が必要だと感じ、興国の興廃のためにと招聘した存在なのでした。
―――にも拘らず、彼の者達は各戦線に現れても自らのことを立証はしませんでした。
それは・・・然(さ)も、何かを見定めているが如く―――
それは・・・然(さ)も、自分たちの出処を知っているかの如く―――
そしてそのことは、各戦線が拡大することにも繋がってくるのです。
閑話休題―――・・・
西部戦線においては、今日もまた激しい戦戟の火花が散っていました。〕
伝:報告―――只今、北方の味方の砦が占拠された模様!
紫:そう・・・判ったわ―――
皆の者、私に続け―――! これから奪われた砦を奪い返します!
〔隣国であるラージャの大半をカルマに奪われたことにより、一層の重要性が迫られた西部戦線の北方の地にて、
そこではたった一つの砦の攻防においても、戦況的・・・または戦略的にも重要であるため、
奪われたら奪い返す―――と云う、云わば非生産的なことを幾度となく繰り返していたのです。
けれども・・・そう、こちらは以前から兵糧の不足が叫ばれており、そのこと自体が西部戦線においての兵糧の浪費―――
ついては、士気の減退にも繋がってもいたのです。
ゆえに・・・パライソの兵士はいつも栄養不足―――最初の頃は気勢が上がってはいたものの、
こうも兵士に与える食料が少なくては、いくら良策を立てたとしても思うようには運ぶことができず、
そこがこちら方面での総指揮を担っている紫苑の頭の痛い問題でもあったのです。
それに―――カルマのこの戦略・・・徒(いたずら)に兵糧を浪費させる 枯渇の法 を取らされていることに、気付かない紫苑でもなかったのですが、
だからと云って奪取された砦を奪い返さなければ、その砦から蚕食されないとも限らないので、今回もまた望まぬ進軍をするのです。
けれども、このままでは危うい―――と感じていた紫苑は、自身が早馬を駈り、ウェオブリに在駐する婀陀那に、
自分たちの出身国であるヴェルノア公国に、兵糧の援助を打診するよう具申したのです。
このことを快諾した婀陀那は、早速シャクラディアに親書を送り、女皇から同盟国と云っても差し支えのないヴェルノアに向け、
食糧輸送による支援を促せたものでした。
これで一応は、次の収穫の時期までは食糧のことは心配ない―――と、思われたのですが・・・
不思議と、一月(ひとつき)待とうが二月(ふたつき)待とうが、望んでいたヴェルノアからの救援の輜重隊は到着することはなかったのです。
そのことを不審に思った紫苑は、急遽ウェオブリまで赴き―――・・・〕
婀:―――なんと? 未だ持ってヴェルノアよりの物資は届いておらぬと申すのか。
紫:はい・・・アヱカ様のお辞(ことば)により、すでに要請は届いているはずなのですが―――・・・
タ:―――ふむ、判りました。 そのことに関しましては、ワシのほうでも少しばかりの工面を図りましょう。
〔自らの主、婀陀那の姿を借りる者が、ここへきて両国の関係に波風を立たせるような算段を目論んでいる者ではないことを知っていた三者は、
この異常事態について協議をし合うのですが・・・そのうちの一名であるタケルの口から、このままではかの戦線が維持できないものと見たのか、
少しばかりの工面―――そう、このウェオブリは元々中華の国と呼ばれたフ国の都でもあったため、暫定的に食を繋げるだけの量は確保されていたみたいなのです。〕