≪五節;君、死ニ給ウ事莫レ≫
〔士気を取り戻そうとする策を展開しようとした前に、ふと訪れてしまった不幸・・・
自分が守らなければならなかったのに、またしても、命を落としてしまった大切なモノ・・・
最早、虫の息と云って差し支えないベイガンを救うため、キリエは躊躇するまでもなく自らのグノーシスを解放させたのです。
ですが・・・折からの空腹のため、体力がなかった所為もあり、ベイガンの負傷は思っていたよりも塞がり切ることはなく・・・〕
キ:そ・・・そんな―――傷が塞がっていかない・・・
ダメよ、イヤ・・・生きる希望を捨ててはダメ、諦めちゃダメよ―――ベイガン、ベイガン!!
べ:・・・キリエさん―――すまねぇ・・・最期の最期でドジ踏んじまった・・・やっぱあんたの云う通り―――ううっ!
キ:ダメよ、喋っちゃダメ・・・余計な体力を消耗するから―――!
べ:―――へへっ・・・へへへ・・・キリエさん・・・死ぬってな、案外―――呆ッ気ねえもん・・・だ・・・・・・・
キ:あぁ・・・イヤ―――死なないで! ベイガン〜〜!!
〔キリエの―――献身の介護も虚しく・・・彼女最良の相棒は、最期の時を迎えたのです。
すると―――まさにその時、キリエの纏っていた凍気が、ある現象になって立ち昇ったのです。
そう・・・その現象こそ、カムロポリスに留まっていたヱリヤも視認した―――サンピラー・・・。
そしてこの現象を視認したことにより、その場所にある存在を呼び寄せてしまったのです。
その・・・ある存在こそは―――〕
誰:>何を・・・泣いているのだ―――我が娘よ・・・<
キ:(・・・はっ!この声は―――)あぁっ・・・ママーシャ―――!!
〔その場に現れていたのは、ある人物の本体ではなく、精神を立体映像にしたもの―――アストラルパディ・・・
つまり、その人物が持つと云う グノーシス・プロミネンス を介して発生させた、映像データとでも云うべき存在がキリエの視覚分野に作用していたのです。
しかし、その人物こそ・・・キリエ自身の母にして、上官の将軍でもある―――・・・
しかも、女々しく涕を見せていては、またしても厳しいお叱りの言葉がある―――ものと感じたキリエは、頬を伝わせていたものを拭おうとしたところ・・・〕
母:>・・・拭ってはならぬ―――<
キ:えっ・・・なぜ、なぜ拭ってはならないのですか―――以前までは、泣いていた私を厳しく・・・
べ:・・・うぅっ―――
キ:えっ・・・? ―――ベイガン?!
べ:うぅ・・・ここは―――・・・?
―――キリエさん? オレは・・・死んだんじゃ・・・
キ:(そうよ―――確かに私はベイガンの生体反応が途絶えたのを確認したのに・・・)
でも・・・ああ、良かった―――
べ:いちちち・・・痛てえよ―――キリエさん・・・
キ:あっ―――ごめんなさい。
母:>フフッ―――そそっかしい奴め。<
べ:あれ?そう云うあんたは―――・・・
キ:(あっ、まづ・・・)あ―――あのね?ベイガン・・・この方は・・・
母:>私は―――キリエの母なる者だ。<
〔けれど、キリエの行為を止めさせたのは、意外にもその存在でした。
しかも、キリエの流していた涕を無駄にしてはならないとしていたのです。
けれど、どうして―――・・・
その理由を訊ねようとしたところ、先ほど深手の傷を負い絶息していたはずのベイガンが、息を吹き返したのです。
そんな・・・不可思議なこともあるものだと思いもするのですが、大事な人が奇跡的に助かったことの方に悦びを隠しきれることができず、
思わずも力強く抱きしめてしまうキリエに、困惑が混ざった表情をするベイガン・・・
そんな彼らの微笑ましい光景を見て、祝福をするかのような声に、ベイガンはそちらの方を向いてみると―――
自分たちの傍らに立つ、陽炎のような存在・・・この時代には見たこともないような真紅の鎧を身につけた人物に、訝しみはするのですが、
キリエ自身ですら怖じてしまう存在に、何か粗相でもあってはならない―――と、その人物について話そうとしたのです。
ところがその人物自身が、ベイガンにキリエの母である―――と、証しを立ててきたのです。〕