≪二節;伝令の正体≫
〔そして―――約束の時間となったので、到来しているはずの援軍の将が待っている作戦会議室に再び集まってみれば、
そこにはなんと―――・・・〕
将:―――さて、援軍の将殿も来ていることだし、カルマを破る算段を・・・
将:うん? 見当たらんぞ? ここにいるのはあの伝令の女の子だけじゃないか・・・
〔敵軍を破るために、さぞかし白熱した議論を交わせるものと思い、再びこの部屋に入ってきた将校たちは目を疑いました。
それもそのはず―――あれだけ必ず姿を見せると云われていた人物の姿は影さえもなく、
その代わりと云っては、先頃と同じように伝令を仰せつかっていた少女のみ―――
そのことに、少女から揶揄(からか)われたと感じた将校の一人が、なぜこのような時期にそんな悪戯(いたずら)をするのかと詰(なじ)ろうとしたところ、
ノブシゲがあることに気づいたのです。
そう―――もし・・・〕
ノ:待て―――おい、ちょっと待て! も・・・もしかするとそなたが―――
ヱ:フフ・・・おや、感心なことだ―――この私がこちらに来ていたと云う事を見通している者がいようとは・・・
将:な―――なに・・・? すると、では―――
将:い、今までの一部始終を―――
ヱ:いかにも―――・・・伝令役である一少女より連絡を受け、当人である私が時間通りに作戦会議の席に付いている・・・何の問題もないだろう。
それに、見せてもらったぞ―――何もかも・・・
ノ:・・・面目次第もござらん―――
ヱ:・・・勘違いするのはよくない、それに謝りおくべきは、友軍の窮地にも拘らずこのような登場の仕方をした私の方こそにある。
そうやって頭(こうべ)を垂れている暇があるのだったらば、カルマを破る策を論じ合った方がよいのではないのかな。
将:そ・・・そうは申されますが―――
将:恥ずかしいお話しながら、見聞されていた通り、出る者は出尽くしてしまった有様なのでして―――
ヱ:おや、そうだったか―――その中には、私の見立ての中で使えるモノがあった気がしたが・・・
今までのみならず、ここ昨今の事情を鑑みるに、現在君たちが抱えている悩みとは食糧の件―――只この一件に限っている。
その苦しい事情に、今更この私が現れたところで案山子が一体増えたくらいにしかならない。
ではどうすればよいか・・・フフ―――ならば、彼奴らの思惑に乗って差し上げようではないか・・・
〔未だ到着すらしていない未明の援軍―――またそれより先行して陣中の有様を見聞していた伝令の少女・・・
その少女の申し立てにより、もうしばらくして渦中の人物が現れるとしていた時に、その人物の姿ではなくして少女だけがいたと云うのはどう云う事だろう・・・
いや・・・もし、あるいはこの少女こそが、現れるべき渦中の人物ではないか―――・・・
ノブシゲのその予感は当たっていました。
援軍で訪れるべき将軍は、何も遅延をしているのではなく、すでに伝令の少女として現れ自分たちの有態(ありてい)を見ていた・・・
もし、その少女が初めから自分が援軍で訪れるべき者である―――としたとき、恐らく自分たちは自分たちを取り繕うようなことをしていただろう・・・
だからこそ少女は自分の身分を偽り、一少女のままでありつづけようとしていたのです。
しかし―――この砦のみならず西部・・・いや、東部においても顕著に表れ出していることに、静観を決め込んでいるだけではコトにならないと感じたヱリヤは、
今まで身分を偽っていたことを最初に詫び、一将校としてその場に居直ったのです。
而して、作戦会議を続行させようにも、すでに立案材料は出尽くしたものばかりで、
しかも作戦行動を起こせようにも、兵士の数に対して圧倒的に足らない兵糧では話になるわけでもなく・・・
けれど、ヱリヤが目を付けたのは、まさにそこだったのです。〕