<第十一章;中華思想の國>
≪一節;馬車に揺られて・・・≫
〔ここは―――ガルバディア大陸を巡っている、主要街道の一つ―――「ウェンティア街道」。
その街道を、馬車が一台、揺られていくのが見受けられます。
そして、この馬車の行き先は『フ国』であり・・・その首都でもある、『ウェオブリ』なのです。
―――と、いうことは、当然この馬車に乗っているのは、アヱカ姫・・・と、共としてついてきている、
紫苑・コみゅ・乃亜・・・そしてキリエ婆―――の、計五人・・・・。〕
コ:わぁ〜〜―――い! ぅわぁ〜〜――――い! あたしたち、今、馬車に乗ってるんだみゅ?!
乃:・・・きしぇきみぅ。
ア:あらあら・・・コみゅちゃんたら・・・
紫:でも・・・余りはしゃぎすぎてもらっても・・・
私達は、別に遊び目的で行くわけではないのですから・・・。
キ:まぁまぁ・・・よろしぃじゃあないですか。
一生に一度、あるかないかの都見物なんだ・・・この婆めにも、ようやくにして、その機会が巡ってきたんだ・・・
ありがたや〜〜〜―――ありがたや〜〜〜―――
紫:ちょ―――ちょっと、お婆さん・・・そんな・・・・縁起でもない。
〔当時をしての、中華の都へ出向くというのは、一生に一度あるかないか・・・と、云われていただけに、
コみゅと乃亜の姉妹は、文字通りのはしゃぎっぷり・・・しかも、齢100はくるかという老婆キリエは、拝みだす始末・・・とは―――
そんなことよりも、実はこの五人のうち、アヱカ姫と紫苑は、とある目的のために、大都会のウェオブリに向かっていたのですが・・・・
他の三人、コみゅ・乃亜・キリエ婆は、どうやら都見物だけにとどまっておくようです。
それでは―――・・・・どういった経緯(いきさつ)で、このようになってしまったのか・・・・
少し、時間軸を遡(さかのぼ)って見てみましょう。
これより―――二日前のお話し・・・・
どうやら紫苑が、フ国へのお使いを全(まっと)うして、今、自分達がいる夜ノ街・・・その機関、ギルドの女頭領・婀陀那の執務室へ戻ってきたようです。〕
紫:只今―――戻りました。
婀:オオ―――ご苦労、で・・・首尾はどのようであったか。
紫:はっ―――ショウ様は、公主様のご意見・・・広く用いて下さるようにございます。
婀:む―――そうか・・・。
よいよい、これでよいのじゃ・・・・こんな掃き溜めの如き処へ、姫君のような清楚な花は根付くべきではない・・・
もっと、条件の良い土壌でこそ、かの大輪の花を咲かせるべきよ・・・・そうであろう、紫苑。
紫:は―――ですか・・・しかし・・・
婀:んん―――? なんじゃ・・・
紫:いえ・・・ここを「掃き溜めの如き」・・・とは――――
それでは、ここに君臨されておられる婀陀那様・・・ひいては、その側近たる私めなどは、どのようなものであろうか・・・と、思いまして。
婀:フフ―――全(まった)き・・・そのような存在よ。
いくら上辺だけが良かろうが、その実(じつ)は恐るべき毒を醸し出しおる・・・違うか?
紫;これは―――・・・・痛いところを・・・・
―――あっはっは―――
紫:―――それでは、アヱカ様がこちらに参った折には、よろしくお願いいたします。
婀:うむ―――ようやってくれた・・・今は、ゆるりと休むがよいぞ。
紫:はっ――――
〔紫苑は―――実の上司(・・・と、いうべきよりは主)の婀陀那に事の顛末を述べ、後事は婀陀那に総てを託すようです。
そうこうしているうちにアヱカが、コみゅ・乃亜を伴い・・・・婀陀那のいる執務室に、顔を覗かせたようです。〕