≪四節;雑踏の中で・・・・≫
〔それはそうと――――どうやら明日の段取りも終え、宿の寝室で休息を取るもの――――と、思われたアヱカは・・・〕
ア:はあ・・・それにしても・・・驚きましたわ。
よりによって、このわたくしが明日赴く処―――って、ウェオブリにあるマーヴェラス城だったなんて・・・
でも―――・・・婀陀那さんほどの方なら、あのお城に、どなたかお知り合いがおられるのでしょうね。
そうだとしても、不思議ではございませんから・・・・ね。
〔そう・・・明日の段取りを紫苑から聞くに及び、今回のお使いの目的が明らかとなり。
その目的も、ウェオブリにある、マーヴェラス城にあると聞かされた折には、正直戸惑いはしたものの、あの婀陀那ならば・・・と、不思議に納得はしていたようです。
そして、一日が明け――――今日は紫苑と共に、明日の下見を兼ねて市井へと出たようです。
そんな彼女達とはまた別の場所で・・・恐らくこの人物は、この国の重臣なのでしょうか。
とにかくも、恰幅のよさそうな人物が、午前の市井の見廻りをしているようです。〕
イ:(イク=ジュン=スカイウォーカー;前回も出てきたこの男性こそ、この国に重きを成す臣『尚書令』)
あぁ〜〜―――これ、皆の衆、務めに精を出しておるかな?
民:あっ、これはイク様・・・えぇ、それはもう・・・お殿様のお蔭で、安心して商いが出来ますよ。
イ:ははは・・・・そうかそうか、では――――どれ、この果物の品定めでもしてみるかな?
―――しゃくっ―――
イ:んん〜〜・・・・旨いっ! 噛んだ時の歯触りと言い、その後、口の中に溢れ出す、この甘味の強い果汁といい・・・
どれをとっても申し分がない!!
民:あの〜〜――――イク様?
イ:ぅんっ?! 何かの?
民:その品物のお代金、50銭と、なっておりますが―――・・・
イ:まぁまぁ・・・よいではないか。
後で城の者に持ってこさせるから・・・・。
それより・・・も一個ダメか??
民:仕方ありませんねぇ〜〜イク様にはかないませんわ・・・。
―――あっはっはっは―――
〔彼―――イクの身分は、この国の内政務官『尚書令』という役職。
その彼自身が、市井に出て、そこで暮らしている民達の現状を見ている・・・・とは、
これを見ても判る事のように、この国の政(まつりごと)は、広く一般市民にも開放されており、文字通りの『官・民一体』だったのです。
その一方―――― アヱカと紫苑は・・・〕
ア:下見のはずですのに・・・なんだか、とっても緊張してきましたわ。
紫:何もそう緊張なされずとも、城内には畏れるような方々はおられない事ですし。
ア:そう―――・・・ですよ、ね? いけないことだわ・・・わたくしったら。
〔どうやらアヱカは、今更ながらに、『今、自分は、ひょっとしてとんでもない場所に来ているのでは』・・・と、思うようになってしまっていたようです。
でも・・・そこはそれ、紫苑が上手くなだめ、今は、少しでもこの都会での雑踏などになれるために、市中を案内していたのです。
――――と、すると・・・まさにその時だったのです。
アヱカの横を、駆けるようにして行き過ぎようとした子供が―――・・・・〕
子:あ―――・・・っ!
ア:(あ・・・っ)
紫:(あ―――・・・)
イ:(ぅんっ?!)
子:うっ―――・・・うぅぅ・・・いたぃ・・・痛いよぅ・・・・
〔ナニを―――そんなに急いでいたのか・・・道端にある石に蹴躓(けつまづ)き、やがてそれが因(もと)でぐずり始めたのです。
しかし・・・これは、よくよく起こりうる日常茶飯事の光景なのですが・・・・
刮目すべきは、この後のやり取りなのです。〕