≪四節;言い分≫

 

 

〔西部戦線にて、カルマ側の戦略的拠点である兵糧庫を奪還するために、主としてカルマ南征の本陣ともなっていたワコウを、たった一人で壊滅に追い込んだ猛将がいました。

しかしその猛将は、ワコウを壊滅に追い込んだだけで、自分の役割を果たすと颯爽とその場から引き揚げたのです。

 

それと云うのも、今回は兵糧庫の奪還が主観としてあり、なにもワコウを手中に収める必要性もなかったことから・・・に、他ならなかったのですが、

ヱリヤ自身も、カルマの拠点をここまで痛めつけておけば、回復するのにも時間を要するだろう・・・

それまでに疲れた兵士たちの身体を癒すのに、十分すぎる時間は与えられるはずだ・・・と、こう思っていたのですが―――

 

ヱリヤがコーリタニへと戻った際、そこには今までにない騒々しさがあったのです。

 

それと云うのも―――・・・〕

 

 

チ:手前は聞いておりませんぞ―――今回は、コヤリ・ミノウ山・ジュラクの三つを陥とす―――奪還が主目的だったではございませぬか!

  それなのに―――・・・

 

ヱ:―――どうしたのだ、声を荒げて・・・

 

 

〔普段は兄とよく似て、声も荒げることのないチカラが、その時には珍しくも西部方面の指揮官である紫苑に、

本来ならば作戦にはなかったことがどうして行われたのか―――と、激しく詰め寄っていたのです。

 

それによく見てみればあのノブシゲでさえも腕組みをし、何やら難しい表情をしている・・・

そのことに異状を感じたヱリヤは、事の次第を質すために彼らに近づいたのです。

 

すると―――・・・意外な事実が判明したのです。〕

 

 

紫:ああ、ヱリヤ様―――・・・いえ、実は・・・

ノ:・・・それがしたちの王城であったワコウが、何者かによって潰されたのだ。

 

ヱ:ワコウ・・・ああそれならば、今しがた私が寄ってきたところだが―――

チ:な・・・っ?! なんてことをしてくれたのです! あなた様にはあそこが手前たちにとってどんなところかは・・・

 

ヱ:・・・関係ないな―――昔日にはそうであったかも知れんが、現在ではカルマの兵が集う拠点となり果てているのだ、

  斯く云う君たちは、かの拠点を奪還するのに後方よりの憂いを全く気にしなかったのかな。

ノ:ヱリヤ様・・・それでは、あなた様が望んでここに残られたと云うのも、そのことを見越した上で―――

 

ヱ:・・・判った―――もういい、少しばかり軽率だった。

  郷愁の思いに駈られている貴君らを蔑(ないがし)ろにし、私の独断だけて先行してしまったことを―――ここでお詫び申し上げる・・・

 

 

〔今回ヱリヤが壊滅させたカルマの拠点は、かつてのノブシゲやチカラの故国でもあったラージャの王都だったところなのでした。

それに・・・今回のヱリヤはコーリタニの留守居役・・・ワコウを攻めると云うのならば一言貰いたかった―――と、チカラはそう云いたかったのですが、

ノブシゲからの言葉に何を感じたのか、諍いを避けるためなのか・・・ヱリヤは自らが非とするところを認めたのです。

 

この意外なことに、目を丸くする諸将は―――・・・〕

 

 

べ:はあ〜〜随分とまた物分かりがよかったなあ―――

キ:そうね―――私もあんなママーシャを見るのは初めてだわ。

  ・・・とは云っても、公の場にはああいった私情を持ち込まない方だったから―――私なんかしょっちゅうお叱りの対象だったものよ。

 

チ:申し訳・・・ござらぬ―――つい、紫苑殿が秘密裏に手を回されたものと思い込みまして・・・

紫:―――もうそのことはいいです・・・しかし、ヱリヤ様には実に気の毒をしました。

ノ:そうだな・・・少しばかり思慮の足りなさがあったようだ―――それに正直ヱリヤ様の実力を過小に見ていた嫌いはあったようだ。

 

紫:確かに―――たったお一人でワコウに在駐するカルマ軍を壊滅に追い込んだ・・・とは、

  もしあの方の云われの通り、ワコウから各拠点に援軍として向かわれていたら、今回の作戦の成功に結び付かなかったことでしょう。

  ここはこの方面を預かる私から説得を試みたいと思います。

 

ノ:いや―――それはそれがしに任せて頂こう。

  あの方とはそなたらより少しばかり付き合いが長いのでな、耳を傾けてくれるだろうとは思う。

 

 

〔上級の将校は、その確約された地位の高さからか滅多と自身の非を認めたがらないところがある―――とは、昨今そう変わりはありませんでした。

そこをヱリヤは素直に認めた・・・そのことだけでも大いに驚きはあったものなのですが、強壮で知られるカルマ軍を、たった一人で叩いたことにも、驚かされはしたのです。

 

けれども、事の真相を知るに至ると、気まづさだけがその場に残り―――よく考えた上で、自分たちにも責任があると感じた彼らは、

ノブシゲがその代表となりヱリヤの機嫌を治してもらうべく、説得工作に赴いたのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>>