<第百十五章;公爵散華>
≪一節;後悔一念≫
〔・・・どうして―――こんな事になってしまったんだろう・・・
リリアは今、そのことについて深く考えていました。
確かに―――エルムと云う人に関しては、当初からあまりいい心証を持っていなかった・・・
―――だ、としても・・・自分の窮地には、その人自らを犠牲にしてまでも、自分を護り通してくれた・・・
―――それなのに・・・
今―――エルムの亡骸を前に、ただ涕に暮れるリリア・・・
それではどうしてこんな経緯に至ってしまったのか―――・・・
それは―――・・・
―――それは、パライソ軍によるジュウテツ攻略の最中(さなか)に起こった出来事だったのです。
しかもこの一戦は、今後の東部戦線・・・いや、総ての戦局を見渡すうえでも重要な戦の一つでもあるため、双方相譲らぬ展開が続いていたのです。
それ故、この度の先陣を授かった統東将軍のリリアは、良きパートナーでもある平東将軍のハミルトンと共に不破の陣を敷き、ここに必勝を期するのですが・・・
それはカルマでも同じこと―――易々と三大兵糧庫の一つが奪われたとあっては、上層部への聞こえも好くないため、やはり必死の抵抗が試みられたのです。
こうして―――戦線は長期化・・・膠着状態へ、次第に泥沼化していったのです。〕
ハ:一陣―――二陣―――頭を低く構えて・・・敵の突撃に備えるのです。
ここは辛抱が肝要―――半歩でも退く勇気がなければ、勝ち目はないと思ってください。
〔まづ―――戦端は左翼と右翼で展開していきました。
敵を手の届く範囲で捌くのではなく、むしろ自分たちの方へと引き寄せ、そこで叩く・・・
けれども、それは大変忍耐がいる作戦なのでした。
しかし―――実際的にも、そちらの方が被害は最小限に食い止められるのです。
けれども―――それは飽くまで相手が人間だったら・・・ば、の話。
今、彼らが闘っているのは、ヒューマンではなく魔物・・・ゴブリンやリザードマン、ドビーやオークなどの魔界の生物が、刀剣や鎧で武装をした「軍」なのです。
それを、軍の構成が全員人間の兵士であるパライソ軍は、見る見るうちに押され―――じりじりと後退を始めたのです。
するとここで―――指揮官であるハミルトンが・・・〕
ハ:―――今です! 左右の両軍を後退させ、中央の私の軍と・・・リリアの伏勢を―――!
リ:今よ―――! かかれぇ〜!!
〔予(かね)てからの合図で、一気に下がる左翼と右翼・・・そして、それに呼応するかのように、
中央に控えていたハミルトンの軍と、伏せておいたリリアの軍とが、一斉に敵を迎え撃ち――― 一気に畳みかけようとしたのです。
すると―――その時・・・〕