≪二節;凄惨な事実≫
〔この・・・エルムの下僕である熊狗の一匹の姿が変じた医師、ヘライトスが―――傷だらけの熊狗に近づいてよく見てみれば・・・
熊狗の顎(あぎと)からは、手首から先がない――― 一本の・・・女性だと判る腕(かいな)が覗いていたのでした。
それを見るなりリリアは、このヴァンパイアの身に降りかかった災厄のことが判ってしまったのです。
そして―――その医師が、顎(あぎと)から覗く腕(かいな)を引っ張ってみると・・・
そこからは筆舌のし難い―――・・・
まるで・・・身体をぼろ布の様にされた女性の屍体―――
肚を十字に割かれ・・・総ての臓腑を失っていた―――
いや・・・去り際にあの光景を見ていたリリアだったら、この無惨な女性の屍体はヴァンパイアエルムのものだという事が判ったでしょう・・・
そんな惨たらしいモノを見てしまい―――リリアはその場で昏倒してしまいました。
それから暫くして、リリアの気が正常に戻ると―――彼女は自分の陣地の天幕の中で横臥(よこたわ)されていたのでした。
そして・・・あんなことになるのが判っていながら、人間である自分を最優先に考えてくれて、最終的には自身が魔将の毒牙にかかってしまった・・・
そんな申し訳なさと―――自責の念に駈られて・・・リリアは涕しました。
あんなにもいい人なのに―――・・・
どうして私は―――あの人のことを悪く思ってしまったのだろう・・・
これから私は・・・どうやってあの人に詫びを入れよう―――許しを乞おう・・・
そうだ・・・ここは―――
未だ、ふら付く頭を抱えながら、寝床から起き上がって天幕を出たところへ―――
リリアは・・・陣地のある場所に、目新しい別の天幕が出来上がっているのに気づいたのです。
しかし・・・この天幕こそは―――・・・
而して、やはりその天幕こそは―――この度討ち死にしてしまった、エルムの亡骸が安置されている霊安処だったのです。
そして―――そこで・・・変わり果てたエルムの姿を見て、慟哭してしまうリリア・・・
拭っても―――拭っても―――あとから溢れ出る涕・・・
できることなら、自分が身代わりになってやってもいい―――と、さえも思ったほどなのでした。〕