≪三節;或る異変・・・≫

 

 

〔その一方で―――同じくジュウテツを攻める為、別方面からの攻略を展開させていたセシルが率いる軍中にて・・・〕

 

 

サ:うぐっ! ぐうぅ・・・

マ:(!)いかがなされたのですか―――子爵様!

セ:サヤさん―――どうし・・・(はっ!お腹の辺りに血痕・・・まさかこの人、影腹を!?)

 

マ:むっ―――これは・・・「スティグマータ」。

セ:スティグマータ? でもそれ・・・って、聖人の身体に出来る傷跡のようなものじゃ・・・

 

マ:あなたが仰っているのは「聖痕」、私が先ほど述べたのは「怨痕」のことです。

  まあ・・・どちらの現象も、あまり喜ばしいことではないのですが・・・

  ですが、今この時にこれが現れてくるとなると、最悪の事態を考えなければならなくなるかも知れません。

 

 

〔ここ最近でヴァンパイアの一族であることがバレ、なし崩し的にパライソの右将軍として今回の攻略戦に従軍していたサヤ。

しかし―――なんとこの時、何の前触れもなくセシルの目の前で悶絶して倒れてしまったのです。

 

しかも・・・セシルでも見て判る―――サヤの胴の部分から滲み出るようにして見える血痕・・・

このことをセシルは、サヤが戦が始まる前に影腹を召していたものと勘違いしてしまったのです。

 

ところが、サヤの下僕であるマダラが、急いで胴衣を肌蹴させて気になる部位を見たとき、

そこに見えたのは・・・まるで蚯蚓腫(みみずば)れの様に浮きあがって見える十字の痕―――

それを見るなり、マダラはこの痕のことを「スティグマータ」(怨痕)と云ったのですが・・・彼の頭の中には、また別の不安要素があったようです。

 

そのことを見抜いたのか―――横臥しているサヤが・・・〕

 

 

サ:マダラ・・・私に構うな。

マ:しかし・・・子爵様―――

 

サ:大丈夫だよ―――それにどうやら、私の身体の内に封印しといた悪い蟲が騒ぎ出したようだ・・・

マ:すると・・・やはり―――

 

サ:つぅ〜わけで―――私はこれからあの方の下へと行く。

  お前はここに残り、この人の役に立つんだ。

セ:あっ・・・ちょっと待って? その前にその腹の痕の説明を―――

 

サ:統西将軍さん―――自分の判んないことに興味を持つのは、悪い―――とまでは云ゃあしないが・・・

  あんまし自分の手に余り過ぎるもんにまで手を伸ばすのは賢いとは云えないぜ。

  じゃあな・・・あとはよろしく、頼んだよ―――

 

 

〔悶絶して倒れるほどの重傷だというのに、時間が経つとその人は平然としていました。

それでもセシルが不思議に思っていたのは、サヤの内でも何か良くないことが起こり始めているのが判っているらしく、

今、この戦場でカルマと鎬(しのぎ)を削っていることを放棄してまで、とある場所に行こうとしていたのです。

 

そのことを・・・セシルは、腹の痕の説明も兼ねてしてもらおうとしていたのに・・・

その人は―――皮肉たっぷりの言葉を残すと、すぐにその場からいなくなってしまったのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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