≪四節;幼き故の酷薄さ・・・≫
〔そんな中―――・・・シェトラルプールの陣地内にて、少なからずの動揺と衝撃が奔ったのでした。
その動揺と衝撃の主は・・・と、云うと―――〕
誰:―――エルムちゃん・・・エルムちゃんは大丈夫なの?
リ:あなたは・・・確か―――=禽=の一人・・・マキさん?
マ:エルムちゃん・・・あたし―――この陣の近くでイヤなことを聞いたんだ・・・
エルムちゃん、カルマのキュクノスと云う奴と闘って、瀕死の重傷なんだ―――って・・・
でも、エルムちゃんてヴァンパイアだから、平気だよね? 臓腑(はらわた)なんか抜かれても、平気・・・だよね?
でもさ・・・ある物がないと困るだろうから―――
リ:(!! 血の染み出た麻袋・・・まさか―――この子・・・)
マ:・・・ほら、血も滴る新鮮なの―――奴らのだけど、あたしが代えのモノを取ってきてあげたよ。
リ:・・・めて―――
マ:だから・・・エルムちゃん―――目を覚ましなよ。
無くなったエルムちゃんの臓腑(はらわた)、こいつらのと詰め替えれば―――・・・
リ:止めて!お願い・・・そんなことをしたって、もうエルム様は〜・・・
マ:―――うるさいよ・・・あんたが・・・あんたがこの人に何をしてくれたって云うんだ!!
日頃から、この人のことをよく思ってない連中の一人のくせに・・・
リ:・・・・。
マ:あたしは―――最初っから判っていたよ・・・この人はあたしたち人間とは異なってはいるけれども、
他のどんな人たちよりも他人のことを心配してくれて・・・自分のことを犠牲に出来る人なんだ―――って・・・
それを・・・あんな風にふざけちゃったりしちゃうのは、あたしと同じ―――不器用な人だから・・・
リ:〜〜・・・。
マ:それなのに―――なのに・・・こんなにもあたしたちのことを愛してくれて、優しくしてくれる人を・・・あんたが殺したんだっ!!
〔エルムの遺骸が安置されている天幕に、慌ただしくも入ってきたのは―――日頃よりエルムと親しくしていた=禽=の鵙(もず)ことマキなのでした。
それにマキがこんなにも慌ただしかったのも、彼女自身シェトラルブールの陣近くで任務の一つを遂行中に、
ふとしたきっかけで耳にしてしまった、エルム遭難に関する悪い噂・・・
その噂は、噂と云う吹聴だけに留まらず、マキには悪い予感さえしていたのです。
だから、疑う事よりまづ行動を―――
肚を割かれて総ての臓腑を失ったというのなら、代替用のモノを詰め替えればいい―――・・・と、云う、云わば幼稚な行動に走っていたのです。
けれども―――・・・
マキは、エルムと初対面であった当初から、自分と波長のよく似たヴァンパイアのことが、自分に一番近しい存在であると気付いていました。
喋り方―――接し方―――嗜好―――モノの考え方―――どれをとっても・・・
それに勿論、今、自分がこのヴァンパイアにしてあげようとしていたことも、無駄なことだと判っていながらも・・・
もし、この人と自分と、立場が逆だったら―――やはり同じようなことをしてくれるだろう・・・と、そう思い、割り切りながらやっていたことでもあったのです。
けれど、その行為をリリアから咎められたマキは、まさに血を吐かんばかりの勢いで、リリアを責めたのです。
すると・・・マキの―――エルムの気持ちが、今更ながらに判ってきたのか・・・リリアは・・・〕
リ:ゴメン・・・ゴメン―――なさい・・・私―――もっと早くに気付いてあげるべきだった・・・
それを・・・それをぉっ―――!
〔マキの想いを聞いたリリアは―――本当の気持ちで懺悔をしていました。
まっすぐに・・・赤裸々な自分のままで―――
だから・・・だから―――だったのかも知れません、マキがそれ以上リリアを責めるような真似をしなかったのは。〕