≪四節;保険の中味≫
〔今回・・・一つの肉体と云う器が壊れ、その用を足さなくなってしまった時―――発動をした保険・・・
而して、その保険の中味・・・実態とは―――喩えエルムの姿はしていても、全くの別人格のようでした。
しかもその別人格は、驚きのあまり声が出せないでいるリリア達に向かい・・・〕
誰:余が―――こうして出てきた・・・と、云う事は、わが娘如きではフォルネウスの相手は務まらなかったか・・・
へ:あ・・・あなた様は―――
誰:・・・汝は―――
へ:わ、私めは―――エルム様のお側に仕えさせていただいている、不肖・・・ヘライトスと申し上げる者です。
僭越ながら―――あなた様のお名前は・・・
誰:・・・それでは、余の質問の返答にはなっておらぬ―――
ヘライトスとやら・・・余の娘であるエルムは、フォルネウスと対峙し―――敗れた・・・と、云うのだな。
へ:いえ・・・それが―――
誰:・・・違う―――と・・・?
〔その存在は、威圧のある低い声で、下僕の一体に問い質しました・・・
けれどそれは決して満足のいく返答(こた)えではなかったらしく、より一層に・・・怒気を含んだ云い方で、自身がこの世に出なければならなくなった理由を訊いたのでした。
そこで、ヘライトスはその質問に返答(こた)えました―――すると・・・〕
へ:うっ・・・ぐ―――ぐはぁっ!
誰:なんだと・・・今一度申してみよ―――
へ:も・・・申し訳ございませ―――・・・
ソ:へ―――ヘライトス!!
サ:・・・っく―――なんてヤツだ、公爵さんの両手首は失われてる・・・ってのに、なのに―――
ならばどうして、ヘライトスの首元には手の影がくっきりとついている!?
誰:黙れ―――愚か者・・・
ふむ―――しかし考えものだ・・・あの下衆にも劣る、さらなる下衆に敗れたとあっては、我らの沽券にも係わるというもの・・・
さて・・・どうしてくれよう―――
〔表情や言葉内からでは読み取り難(にく)かったモノ―――雰囲気からは激怒を含むモノが滲み出ていました。
しかもこうなってしまった事の顛末を述べていた者を、宙に釣りあげ―――叱責しているかのような格好・・・
けれどもその肉体には、魔将の一人によって斬り落とされた両手首・・・だから物は掴めないモノとそう思っていると、
確かにヘライトスの首元には、その存在の手らしき影がくっきりとついていたのです。
しかしそこで―――事の真相を知っているリリアとマキは・・・〕
リ:ち―――ちょっ・・・あの、待ってあげてください。
エルム様がこうなってしまったきっかけを作ったのは・・・私にあるんです。
私が―――以前に私たちの故国の境を侵したキュクノスと云う魔将を前にし・・・そこで私が窮地に陥ってしまったところを、エルム様に助けていただいた―――
そこまでは良かったんです・・・けれども、あの方もそいつに関してはいい感情を持っていなかったらしく―――それで・・・
誰:――――・・・。
マ:あの・・・おじちゃん、ひょっとするとエルムちゃんのお父さんか何か?
誰:・・・どうしてそう思うね―――
マ:だって・・・おじちゃん、さっきエルムちゃんのこと―――「わが娘」って云ってたから・・・
それに―――今はエルムちゃんの姿をしていても、中味・・・人格ってゆうのかな・・・それが別の人のような感じがして・・・
誰:フ・・・フフフフ―――面白いことを述べる者があったものだな。
それに・・・どうやら汝は、わが娘が認めた者のようだ―――・・・その証拠に、ブラッドチャリスが一際(ひときわ)輝いているではないか。
マ:それより・・・ねぇ―――おじちゃん。
あたしたちにおじちゃんの名前教えてよ・・・。
誰:汝たちが、エルム―――と、わが娘の名で呼びたければそうするがよい・・・
然りとて、余もまた自身の名を持つ者でもある・・・。
歴史の彼方に―――葬り去られた・・・忌まわしい名が・・・な。