<第百十九章;充足(みちたり)ぬ日々>
≪一節;復旧されゆくを見て≫
〔この時代に―――東西に分かれて、この大陸の行く末を占う大戦(おおいくさ)が行われていました。
その一つである西部戦線では、新たにパライソ軍に加わることになった古(いにし)えの将―――ヱリヤの働きで一気に盛り返し、
ヱリヤ自身もまた過去に名を馳せた武名を轟かせ、元はラージャの都城でもあったワコウを彼女一人で崩壊させたものだったのです。
これにより―――カルマもこの方面の防衛に力を入れることとなり、急いでワコウ城の復建に着手・・・
西と南からのパライソ軍の攻勢に備えたのです。
そして―――・・・かつては自分達の城でもあったワコウ城が、元通りとなって行く姿を、近くの砦にて様子を窺っていた者は・・・〕
ノ:ふぅむ・・・どうやら八割方修復したようだな。
ヱ:―――申し訳ない・・・
ノ:いや、まあ・・・仕方のないことです。
元はそれがしたちが出仕していた処ではありますが、今では敵の手に落ち・・・奴らの出城にまで成り下がってしまっている―――
ヱ:・・・優しいのだな―――ノブシゲ殿は。
ノ:そう云う―――ヱリヤ様も、見かけによらず大胆なところがおありのようで・・・
ヱ:・・・私が?
ノ:そうですとも―――敵の出城になってしまったワコウに、たったお一人で殴り込みをかけるなどと・・・
それがしたちとしても、その勇は見習わなければなりませんかなぁ―――
ヱ:そんなことは・・・見習わなくてもいい―――
元より、陛下からはこちら方面のカルマ掃討を任された身だ、それにカルマを侮ってはいけない・・・
奴らを相手にする―――と、云うのは、内面的にも外面的にも弱い君たちヒューマンには過酷な作業だ・・・
ノ:―――そうは仰られますが、それがしたちとてパライソ女皇から命を受けた身・・・
それに―――
ヱ:もういい―――これ以上議論を続けると諍いの因(もと)となる・・・それからのことは、国が一つとなったときにしよう・・・。
〔折からの=禽=による報告と―――近場の砦から、作匠大匠府で開発された遠眼鏡でワコウ城を臨む男女二人・・・
元は自分の故郷の都城でもあったところが、徐々に修築されていく様を見て往時を偲ぶノブシゲと、
彼の望郷の思いを蹂躙(ふみにじ)ってしまったことに、痛惜の念を禁じ得なかったヱリヤ・・・
それにどうも彼女は、過去の頃からカルマのことをよく思っておらず、
しかも・・・パライソ国とも同盟関係にない以上―――かの場所もカルマと同意義であると個人的に判断を下し、
事実上崩落させた―――・・・
しかし、あとあとになって意見を聞いてみると、ラージャ国から流れてきている人材はそう少なくなく―――
結果としてヱリヤは、半ば味方同然の者達の帰る処を失わせてしまった・・・
確かに、その直後から厳しい意見がヱリヤを待ってもいたのです。
ところが―――・・・ひょんなことから、知り合うきっかけとなった・・・
現在でもヱリヤのすぐ隣にいる、ラージャの男性・・・ノブシゲ=弾正=タイラーの取り成しもあって、
その場は丸く収まることとなり、現在に至るのです。〕