≪三節;不可解な光景≫
〔魔将キュクノスは・・・いえ、キュクノスだけに拘わらず、マキもリリアも一種異様な光景を目にしていました。
それもそのはず―――・・・
ヴァンパイアの真祖であり、公爵であるエルムを行動不能に陥らせたキュクノスの技・・・「反逆の紅い十字」
それがなぜか不発に終わってしまった―――いえ、その表現の仕方は妥当ではありませんでした。
なぜならば、エルムドアの身体には、エルムの時と同じく―――例の技によって傷つけられていた・・・と、云うのだから。
ならば―――どうして・・・?〕
キ:うぅ〜む・・・一体どう云う事だ―――なぜ・・・なぜくたばらん!
お前もヴァンパイアならば、ワシのエクソシズムが効かぬわけではあるまい!!
大:エクソシズム―――・・・ああ、先ほど汝か放った・・・コレのことかね。
すまなかったな―――気が付かなかった・・・それで?この技を喰らった余としては、のたうち―――苦しみ悶えた方が良かったのかね?
リ:う・うっ・・・あ・あ―――し、信じられない・・・エルム様の身体が・・・あのとき以上にボロボロにされているというのに・・・まだ動けるの?
―――だとすると・・・これがヴァンパイア・・・
マ:おじちゃ〜ん!もういいよ―――・・・見てるこっちが辛いよ〜!!
だから―――だからもういいから・・・あとはあたしたちに・・・
大:ン・フフフ―――ククク・・・ハ・ハ・ハハハ―――!!
汝ら三人・・・何を首を傾(かし)げておる。
元々この術は、聖職者が行使して初めて不死者共の仇となることが出来る・・・
それを―――フフ・・・キュクノスとやら、汝は過去にそう云う覚えがあったから行使したのだろうが・・・現在ではどうなのだ―――
現在、黒キ国の矜持に従っている汝が、この術を行使したところで余に効果を及ぼせるものと思ったのかね。
リ:でっ・・・でも―――現実に、エルム様はそいつのその技によって・・・身体を斬り裂かれて・・・
大:それでもなお・・・だよ、リリアとやら―――
余も、現実として、技による損傷をした箇所はいくらでもある。
無論、ヒューマンである汝たちがこの技を喰らえば、一撃の下に命を落とすというのは云うまでもない・・・
では―――なぜ余が未だ持って大地を踏みしめておるか・・・
それはな―――我々はヴァンパイアだからだよ・・・
余の娘もこの技を喰らい―――そして果てた・・・それは大いなる間違いと云うものだ。
なぜならば、余の娘は―――キュクノスよ、汝の腹の中にて未だ息づいておるからだ!
〔エクソシズム―――・・・聞き違いでなければ、今確かにキュクノスはそう云いました。
宗教国家であるサライの―――司祭・枢機卿レベルの者が扱える、対悪魔・対不死者用の攻撃手段・・・
それが魔将であるはずのキュクノスも―――?
けれども、前述のお話しで一つ判っていることに、元々エルムとキュクノスはサライ出身であり―――
二人はともに異端審問官でもあったがために、十分にその問題点はクリアしていたのです。
ならば・・・なぜ―――エルムは行動不能に陥ってしまったのか・・・
その要因が―――たった今大公爵が暴いてみせた、 ハンニバル(食人肉) なのです。
そして・・・そのことを知り、思わずも鬼畜外道にも悖(もと)る行為に―――〕
リ:な・・・あっ―――まさか・・・お前…エルム様の・・・を、食べたというの??!
マ:ど畜生〜〜! 人でなし〜〜!!
キ:フン―――フフフ・・・ああ〜そうだとも・・・だがそれがどうした。
ワシの戦利品は、ワシがどう取り扱おうが勝手だろう―――
リ:・・・もう赦せない! 喩えお前の腹の中にエルム様がいたとて、成敗するのみ―――!!
マ:そうだ・・・そうだよ―――リリアちゃん!! あたしたちのエルムちゃんが、あんな奴に囚われてるなんて・・・好い訳がない!
キ:カァ〜ッカッカッカ―――愚か者どもめ・・・来い、来るがよい・・・お前たちもまとめてワシの腹に収めてくれるわ!!