≪三節;“影”の温情≫
〔ですが――――・・・・〕
ア:・・・・・何が、そんなに可笑しいのです―――
紫:(えっ?)ア・・・アヱカ―――様??
ア:さぁ・・・おっしゃりなさい! 諸百官の居並ぶ中・・・さすがに大国よ―――と、立ち眩みを覚えた事の、どこが可笑しくあるのか・・・
まづは、その理由から述べるべきでありましょう―――!!
ボ:(ボウ=シャイン=グラシャス;32歳;男性;紫苑も申し述べていたように、余り性根が良くない者。
この者の讒言(ざんげん)によって、影ではどれだけの人間が泪してきた事か・・・・)
ううっ・・・く―――し、失礼仕(つかまつ)った・・・。
此度は、ようフに参られた・・・我等一同、手厚く歓迎するものである―――!
ア:・・・・ご苦労様でございました・・・。
私のほうも、王陛下にお会いできる喜びの余り、夕べは興奮しすぎてしまい、十分な睡眠も採れない有様で・・・・
それでついかっとなり、怒鳴り声を上げてしまいましたことを・・・お詫び申し上げる次第にございます。
紫:(アヱカ様――――)
官:(ほぅ・・・)
官:(これはこれは――――)
〔その時のアヱカの口調は、まさに「凛」として「然」・・・
諸百官の居並ぶ只中にいても、臆ともせず―――堂々と自分の主張を言ってのけたのです。
これには、当初の計画より予定外の事よ―――と、一度は怯(ひる)みはしたものの、
さすがに世間渡(よわた)り上手な者は、そのような素振りは一向に見せず、“しれ”としたままでその場を濁したのです。
でも―――しかし・・・この応対は、果たしてあのアヱカ姫なのでしょうか――――?〕
ア:(ふぅ・・・・危なかった――― 間一髪だった・・・な。)
<はっ!! い・・・いけない、わ、わたくしったら、今、一瞬気を・・・・
えっ?? こ・・・これは一体どうなって―――>
影:<やぁ、お目覚めのようだね、アヱカ。>
ア:<あ・・・あなたは!! 昨晩の・・・>
影:<悪いとは思っていたけど、あのままあの場に倒れこむよりかは、幾分かましと思ってね、君の身体を借らせてもらったよ。>
ア:<な・・・なぜ?? まさか―――この機を狙って・・・>
影:<そう―――思ってもらっても、構わない。
けれども、君もよくよく感じただろう? 皆の好奇なる視線を――――>
ア:<は・・・はい、実に―――残念な事ではございます。>
影:<それに、まだまだこれからああいうことは起こりうる、だから、これより先は、私に任せてもらえないかな・・・
なぁに、心配はしなくても、悪いようにはしないよ、君のやり様なら判っている、
伊達に22年も付き合ってきたわけじゃあないからね。>
ア:<ええっ?? に・・・22年?? も・・・もしかすると、わたくしが幼少のみぎりに聞こえていた、あの“声”の主―――って・・・>
影:<おおっと―――それより、ようやくにしてお出ましのようだ・・・
まぁ―――そこから、何がこれから起こるのか、見ていなさい。>
〔そう―――・・・あの時、凛然たる答弁をなしたのは、アヱカ本人ではなく、
彼女が生まれながらにして、やはり同じく存在し続けた“影の人”その人だったのです。
そして、いよいよ御ン体登場か―――― と、おもわれたのですが・・・
そこに登場したのは、ショウ王ではなく、彼の下に集う、『四人の侍中』――――だったのです。〕
シ:(シン=カー=ウィンザルフ;侍中の一人―――ではあるものの、実はあの佞臣・ボウの息のかかった人物)
ほぉう――― こんな田舎娘が・・・ショウ王様に謁見するとは・・・・身分不相応にも甚だしかろうに・・・・
ア:いかにも―――私の身の出処は、小国の一つに過ぎませぬが、
私はそれを恥とは思ったことはございません、いえ、寧ろそのことを誇りにさえ思っております。
ギ:(ギ=ヨウ=カーマイン;侍中の一人・・・でも、先のシンよろしく、佞臣の一派)
ほ―――・・・中々にぬかしよる、どうやら弁舌のほうは達者らしいものよ・・・なぁ?
ア:いえ・・・私はもとより、そう弁舌の達者なほうではありません。
それを申すならば―――諸官のほうが達者なのでは?
ジ:(ジョウ=チョウ=ローファル;侍中の一人・・・この者についても、もはや多くを語らず)
そんなことより――― 聞くところによると、そなたの国・・・あれはなんと言ったかな―――?
ア:テラ―――の、ことでございますか?
ジ:おお―――! そうそう、余りに瑣末(さまつ)過ぎて、国の名すら思い出せなんだわ。
その・・・テラという国、確か―――数ヶ月も前に、滅亡した処と似通っておらぬかな?
紫:(こっ―――! こ奴等・・・云うに事欠いて、なんと言うことを―――!!)
おま―――え・・・・
ア:―――・・・。
紫:アエカ様―――?!
ア:紫苑さん、お気遣いなら無用な事にございます。
紫:し――――しかし!!
ア:この国の・・・重きをなする臣に物申し上げる。
確かに―――私の国は、カルマの侵攻により滅ぼされはしました・・・
ですが―――! 兵達は云うに及ばず、民達も自らの手に鎌や鍬を持ち、誰一人として彼の者に屈することなく、抗って立ち向かったのです。
誰一人として、彼の者に背を向ける行為をしなかったがために、鏖殺(みなごろ)しにされた―――・・・
その事をお嘲(わら)いになりたければ、お嘲(わら)いになればよろしかろう―――
ですが、そんなことをしてしまって、本当によろしいのですか?
第一に、あなた方はフ国を支える柱の一つではありませんか―――・・・
それを・・・他国とはいえ、国のために殉じて逝った者達をお嘲(わら)いになられるとは・・・・・
それはそれで、哀しむべき事ではありませんでしょうか――――??!
〔この・・・四人のうち三人までもが、アヱカの事を悉(ことごと)くに貶(おとし)めんとしていた――――
でも、しかし・・・アヱカはそれらに屈することなく、丁寧に反論してのけたのです。
そして―――この後、残りの一人が、その重々しい口を開き始めたのです・・・。〕
セ:(セキ=イ=ラムーズ;55歳;男性;侍中最後の一人・・・・だが、この男一人だけ、他とは毛並みが違うようである)
真にもって、お恥ずかしき事ながら―――先程よりの度重なる非礼に無礼、重ね重ね申し訳次第もござらん。
ア:いいえ―――・・・詮無きことで・・・。
(ほぉぅ・・・この人物は―――)
ア:<あの、この方がどうかいたしたのですか―――?>
ア:・・・・・・・。
ア:<あの――――もし??>
セ:ただ―――・・・もう少し申し開きをするならば、この国には斯様な者達ばかりではないことを、お知り願いおかれたい。
ア:いえ―――こちらこそ・・・無用な弁ばかり申し立てまして・・・いと恥ずかしき限りにございます。
(いた―――! ここに人が・・・どうやら、大木はその幹から腐っていたわけではなさそうだな・・・)