≪四節;古えの皇談義≫
〔その最後の一人が、他の者と毛並みが違った理由―――
それこそは、この佞臣共と唯一対抗できうる存在・・・・『忠臣』であったことは、すぐに分かったことだったのです。
それを知るにあたり、アヱカ―――いえ、今は彼女の身体を借りている存在である「影の人」は、ほっと胸をなでおろしたようなのです。
そして―――それよりは、このセキなる者が、この国の王=ショウに、アヱカを目通しをするべく案内するのですが・・・
その途上にて、こんな談義がなされたようなのです。〕
セ:時に―――あなた様は「女禍」という皇のことをご存知でいらっしゃいますか?
ア:ジョカ・・・? あぁ―――・・・確か、古えに仁政を施いていたといわれる御仁の事ですか・・・。
それが何か―――?
セ:はい・・・どうもあなた様を見ていると、その方を髣髴とさせられる気がいたしまして。
ア:あはは―――これは気恥ずかしい事を・・・
私も煽(おだ)てられて、喜ばぬ者ではありませんが・・・そのような者に喩(たと)えられますと、実に面映くあります。
セ:ははは――――
ア:それに―――
セ:(ぅん?!)
ア:その御仁が、皇として君臨していたのはほんの二・三年の間だけ・・・
しかも、実に優秀な官吏が施政をなしていましたので、当の本人は、これといって何もしていません。
ただ―――・・・官吏の言っている事に耳を傾け、それを実行しただけに過ぎない・・・・
それを後世になって『仁政』などとは――――片腹が痛いにもほどがある。
セ:(ぅんっ???)
ア:それに―――(ん??) い・・・いかがしたというのです?
セ:いえ・・・それにしても、今のあなた様の言われよう・・・まるでその時に居合わせたかのような―――
ア:(あっ!)い・・・いえ、これはあくまでそうでなかったか―――と・・・単なる憶測にございますよ。
セ:(ふぅむ・・・)そう―――で、ございましたか・・・・
ア:え―――ええ・・・そうでございますよ・・・。
(はぁ・・・まづいことをしたなぁ、どうも懐かしさにかまけて要らざることまで喋ってしまっていたようだ・・・
これ以上、無用な方便は避けたほうがよさそうだ―――それに、もうこれ以上の追求もないだろうから・・・
―――と、いうことで、後は任せることにするよ、アヱカ。)
―――って、任せるって・・・。
セ:はぁ? なにを―――で、ございますかな?
ア:いっ・・・・いえ、こちらの独り言でして―――どうもすみません。
〔「人莫(な)きところに人あり―――」そのことに安堵したのか、影の人はセキからの質疑に、少しばかりの回顧録を語ったようです。
でも―――それは遥か昔の事・・・今の時代に、そんなにまで詳しく語られる存在がいるとは―――・・・
それゆえに、セキは目をまろくし、自分の胸に思ったことをそのままに口にしたところ・・・・
今度は影の人が、そのことでうろたえてしまい、急いでアヱカと交代をしたようです。〕
セ:ははは―――いや、それにしても面白い方だ、あなたは・・・
ア:は―――はぁ・・・そうでしょうか・・・
セ:ええ、先程、あの者達を論破した時と、今のあなたとではどうも違う・・・
まるでもう一人、よく事情を知る者がいるかのようだ―――・・・
ア:(あ、それはありえるかも・・・)
セ:ですが・・・そんなこと、今の世では考えられませぬよな?
どうもいかん―――近頃は邪推ばかりするようになってしまって・・・お気を悪くされましたかな?
ア:いえ―――それほどではありません。
セ:それはありがたい―――
さ・・・着きましたぞ、ここが『王の間』でございます。
〔そうこうしているうちに、本来の目的の場所、フ国統治者であるショウ王のいる場所・・・『王の間』へ―――
するとそこは、自分達二人を大いに歓迎すべく、豪華に並べられたご馳走の数々が・・・
列強各国の特産品や、名物料理が、軒を並べて陳列されていたのです。
その絢爛豪華さに、ただ目をまろくするアヱカが・・・〕
ア:(す・・・すごぃ――― あぁ・・・なんだか、また目眩(めま)いが・・・)
影:<おいおい―――こんなところで、また気を失わないでくれよ?>
ア:<は―――はぁ・・・そうしたいのはヤマヤマなのですが・・・これは少し大袈裟に過ぎないでしょうか??>
影:<はは―――確かに・・・これでは、まるで国賓並みの扱いだね。>
ア:(は・・・)国・・・賓・・・ですか、それはまたなんとも畏れ多い・・・。
紫:アヱカ様、大丈夫でしょうか―――?
ア:は、はぁ〜――でも、しかし・・・これでは「大丈夫」とは言い難いかも・・・
紫:もう少しのご辛抱です、アヱカ様のお席はあちらですので・・・
ア:(・・・って) シ―――ショウ王様の隣り?? あぁ―――も・・・もぅダメ――――・・・
―――と、よろめいている場合ではありませんですね。
(・・・と、言うより、結局こうなってしまったか―――)
〔余り慣れない、上賓並の扱いを受けたためか、目の前は真っ冥―――足元もどことなくおぼつかない様子のアヱカ・・・
結局のところ、また影の人に扶(たす)けられたようです。〕