≪五節;金蘭の交わり≫
〔そして、宴も酣(たけな)わになったとき――――〕
ア:(はっ――!! あ・・・あぁ、そうでした・・・わたくしったらまた―――)
影:<お目覚めかい、アヱカ・・・>
ア:<あっ、あぁ―――・・・度々ながら申し訳ございません、また助けていただいて・・・>
影:<いや・・・この私とて、今は感謝しているところだよ。
こんなもてなしを受けるのは初めてだからね。(することはあっても―――・・・ね。)>
ア:<それを申し上げるならば、わたくしも―――で、ございます。
テラにいたときでさえ、これほどのご馳走が並べられるなんて・・・>
影:<それじゃ・・・一つ食べてみるかい? 中々に美味しいよ。>
ア:<えっ?? よいのですか?>
影:<「よいか」もなにも・・・元々は君の身体じゃないか。>
ア:<そうですか・・・>
それでは、お言葉に甘えまして―――・・・
シ:うんっ? 何か云われましたかな?
ア:えっ?あっ―――い・・・いえ、こちらのことでございまして・・・
シ:それにしても、先程は申し訳ござらなんだ・・・あの者達も、何も悪気があってやったことではないのでな、
そこのところは、どうかワシに免じて、赦してやってもらえまいか―――・・・
ア:あっ―――! そ・・・そんな―――とんでもございません。
わたくしの如き、下賤な身である者のために、頭をお下げにならないで下さい―――困ってしまいます。
シ:いいや――― こんな安っぽいワシの頭なんぞ、いくらでも下げられる・・・
ただ、配下の者が侵した無礼は、その者を任命したワシの無礼でもある・・・
しかも、そなたの国の滅亡の経緯(いきさつ)まで・・・心の傷に塩を塗ってしまうようなことを―――とは・・・
これが謝らずにおれるものだろうか―――な?
ア:(この方は―――・・・)
いえ―――王も人なら、民も・・・官もまた人。
人の為すべき事には、時として過ちがあろうというもの―――その総てをとやかく申していましては、キリがございませんから・・・。
シ:フフフ・・・いやはや―――まだお若いのに、大した事を云われるな―――そなたは。
ア:そ―――そうでしょうか・・・?
〔本日二度目の失神より、ようやく立ち直ったアヱカ・・・
滞りなく影の人と入れ替わり、美味しい宮廷料理に舌鼓を鳴らしたようです。
そして、やや落ち着いたところで、隣席のショウ王から、この度の臣下の非礼を詫びられたようなのですが、
アヱカのほうも、『気にしないで下さい』などの、実に思いやりのある言葉で返したのです。〕
シ:それと―――ですな・・・イクのほうからも、「よく出来た御仁である」との報告を受けておる。
ア:イク? それは・・・どなたのことでしょう?
誰:それはひょっとして―――ワシの事ですかな?
シ:おお―――イクではないか、何をしておったのだ、遅かったではないか。
イ:(イク=ジュン=スカイウォーカー;前々回既に出演済みの、フ国一の重臣中の重臣)
ははは・・・そうは申されましても、市井の巡回をし、民達の暮らしがどうあるのか―――
それを一番に知りべきおくのは、官の務めでございますれば―――・・・
影:<この―――人物は・・・・>
ア:・・・それは、なんとも素晴らしい矜持をお持ちでいらっしゃる事で―――
イ:はは―――それを申すなら、姫君・・・あなたもそうではござらんか。
ア:はぁ――?
イ:影ながら見ておりましたぞ・・・大通りで、子供が蹴躓(けつまづ)いたのを、自らの手を差し伸べることなく、
自力で立たせようとしたのを・・・また、その後の所作事も―――
ア:ま―――まぁ・・・アレを見ていらしたのですか? どうしましょう―――余り褒められる事ではございませんのに・・・。
影:<そうだ―――! この人物はこの国の『尚書令』だ!!>
ア:ぇえっ――?! しょ・・・尚書令?!
イ:ぅんっ?! いかにも―――ワシはこの国の尚書令だが・・・
はて―――?? そなたにそのようなコト、言ったりしましたかの?
ア:い・・・いえ、とんでも―――そんなお大尽様とは知らず、口も憚(はばか)りもせずに・・・
イ:ははは――― イヤイヤ、そんなことは気になさらんほうがよろしい。
それに今は宴会の席だ、堅ッ苦しい呼称は抜きでやりたいものだ・・・なぁ?!
シ:はっ―――こやつの悪い癖がもうでおったか・・・
これ、イクよ、今宵は無礼講だから赦して遣わすが―――もしこれが平時だったなら、赦しておかんところだからな?!
イ:ハッハッハッハ―――こやつめが・・・いっぱしの口を利きよるわ。
ア:あ・・・あの―――ショウ王様は、イク様の主・・・ではないのですか?
イ:カッカッカカ――――w あぁんなビッタレの坊ちゃんが、今やこの大陸の、中華なる国を治める王なのだからなぁ?
シ:こやつめが―――相当に調子に乗りおって・・・だ〜〜れが「ビッタレ」だ! この腕白坊主め!!
イ:ほぉぉ〜〜―――う、言うようになったじゃあないか、昔はワシにいぢめられっぱなしで、ワンワン泣いてばかりおったくせに。
シ:ぐっ―――・・・ぐむぅぅ・・・それは言うなと言っておろうが・・・。
ア:はぁ〜〜――・・・
シ:(ん??)ホレ、見ろ――― お客人が変な顔でワシを見よるでわないかっ――!
イ:はっははは―――いや、スマンスマン・・・
―――と、これこの通り、「王」やら、「尚書令」とかいう肩書きを外してしまえば、案外皆一箇の人間・・・と、いうわけでありますよ。
シ:そ〜〜れを言いたいが為に、ワシを出しに使うなっ―――!
影:<そうか―――成る程・・・つまりこの二人こそは『金蘭の友』というわけか―――>
ア:は・・・はぁ、そうでしたか。
〔そして、この時遅れて顔を出した者こそは、フ国の政(まつりごと)の要を担う人物・・・イク=ジュン=スカイウォーカーだったのです。
が、しかし―――彼は『尚書令』という高等官であるにもかかわらず、決して驕る素振りもなく、
しかも終(つい)には、無礼講という場ということもあってか、王であるショウに軽口の叩き放題・・・とは―――
でも、影の人は、この二人のやり取りを見て、『金蘭の友』だということを、すぐに察知したようです。〕