≪三節;ヱリヤの懸念≫

 

 

〔処変わって―――・・・西部戦線での、ワコウ城攻略の前線ともなっているコーリタニ城の母娘のあの場面の続きから・・・〕

 

 

ヱ:それはひとまづよしとしよう―――・・・それよりも、もう一つ私が気がかりとしていることがある。

  それは―――・・・エルムのことだ・・・

 

キ:あの方の―――・・・ですがあの方の実力は、ママーシャにも匹敵するモノが・・・

 

ヱ:確かに・・・な―――だがそれは、あいつが本気になれば・・・の、話だ。

  お前も知っていよう―――タワーリシチ・エルムの本来のスキルを・・・

 

 

〔あれの持つ「楯」―――と、云うのは、本来護るべき対象がいなくなってしまうと、非常に脆くもなってしまうものだ。

だからこそ、寝覚めの儀式を終えさせたあいつは、エクスワイヤーであるサヤ君に・・・まづ最初に血生魂を作ることを命じる。

 

なぜあんなものが必要となるのか―――・・・それはな、キリエ・・・

古くから息づいている者には、現在と云う環境がいかなるものか、知れぬが故の不安に駆られるのだ。

だからこそ某(なにがし)かの絆を持とうとする―――・・・これは一種の焦りなのだ。

 

だが・・・もし・・・その絆を持つ前に、魂の器である肉体が著しく破損をしてしまえばどうなるか―――

そのための 保険 が、あの血生魂なのだ・・・。

 

 

公爵エルムのことを昔からよく知っている者は、あの一族になり変って、どうして彼らが血生魂なるモノを作らなければならないか―――の、理を説いていました。

 

過去に・・・その一族たちが息づいていた近況と、現在と云う近況とでは大きな隔たりが存在している・・・

その隔たりを埋めるために、公爵は自らが腰を折って下々の者達に取り入ろうとするだろう。

 

けれども、その最中(さなか)に、何らかのアクシデントに巻き込まれてしまった際に、なにも保険をかけていなければ・・・

また―――永い時間・・・暗い地下の柩に籠らなければならなくなる・・・

だからこそ、あんなモノを作る必要性があったのだ―――と・・・

 

 

そう思ってしまうのには―――ここ最近ヱリヤに云い知れない不安の予感がしていたからではないでしょうか・・・。

季節は―――夜になっても、未だに暑さが拭え切れない・・・と、云うのに、

なぜかしらここ二・三日は、肌寒い感じがしてならない―――・・・

つまりヱリヤは、その時抱いていた自分の不安感を、娘のキリエに話していたのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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