≪三節;刺客≫
〔そしてその事件は―――重要事項を取り決めるため、ウェオブリからシャクラディアへと戻ろうとする・・・まさにそう云った時に起きたのです。
それと、お気づきにならないでしょうか・・・
ハルナ陥落の際、カルマ側の将校であった、ギャラハットとヒヅメの件(くだり)はあったのに―――・・・
ある人物の記述が全くなされていなかったことに・・・
しかしそれは、ただ単に筆者がその人物の記述をするのを忘れたのではなく―――
云うなれば、その人物はある機会を窺っていたのです。
そして―――今・・・
皇城・シャクラディアへと戻るため、ウェオブリの廊下を妻と一緒に歩いている者に・・・〕
サ・サ・サ―――・・・
婀:う・ん? ―――・・・
タ:どうした、婀陀―――・・・
婀:あっ・・・あなた―――!
〔突如としてウェオブリに木霊する絶叫―――
愛する夫を何者かに襲われた婀陀那の嬌声は、同じくシャクラディアへと戻ろうとしていた諸将たちを引き戻し、
当時はまだ中軍師などと云うあまり高くない官職に収まっていた、婀陀那の愛する夫にして、稀代の軍略家であるタケルが襲われたことを知らせたのです。
しかし―――・・・襲うのであれば、その当時最高官職を女皇陛下から賜っていた、大将軍・婀陀那の方が妥当であると思われるのですが・・・
襲った者―――刺客は、誤ってはいなかったのです。
それと云うのも、襲った者と襲われた者はどうやら顔見知りのようであり、
襲った刺客の方からすれば、今回襲ったタケル某は刺客自身よりも知恵が働き、だからこそ遭難させようとしていた―――
そして、千載一遇の機会を窺うためウェオブリ城に潜伏し、その機会が訪れたからこそ、携えた武器を抜き放ったのです。
ところが―――・・・〕
タ:大丈夫だ・・・婀陀那―――なにもそんなに騒ぐことではない。
それにしても・・・お互い戦場に出ないものですから、久しく腕が鈍(なま)ってしまったようですなぁ・・・
――― カイン=ステラ=ティンジェル 殿・・・
婀:な―――んですと、カイン・・・ステラ―――ティンジェル?!!
―――と、云う事は・・・まさか!?
タ:いかにも・・・「雪月花」の花の宿将である―――
カ:フ・フ・・・どうやら私も相当に甘かったようだ―――
あんたさんに一太刀浴びせるため、機会を窺ったものだが・・・今はまだその機会ではなかったようだよ。
それにしても・・・緋刀貮漣―――聞きしに勝る業物だよ。
セ:―――兄さん!!?
婀:セ―――セシル殿!
〔タケルの持つ緋刀貮漣の防衛機能 晄盾(こうじゅん) が働き、刺客から抜き放たれた居合の刃を防ぎ切ったのです。
それに・・・あまり重要視されていない人物を襲った刺客を、襲われた本人は知っていた―――
いえ、この二人こそは、こうなる以前にも交友があり、お互いを認め合っていた間柄でもあったのです。
しかも、間の悪い事に、このウェオブリには刺客の実妹もいたのです―――
名を・・・セシル=ベルフラワー=ティンジェル―――
この兄妹は、故郷ハイネスブルグでも評判の、仲の良い兄弟だったのですが、
こう云う時代がそうさせてしまったのか・・・兄は敵国カルマへ―――妹はパライソ国へ・・・
つまり、仲の良い兄弟は引き裂かれ、同じ血縁者同士が争い合ってしまっていたのです。
そしてその場面を、セシルは目撃してしまった―――・・・
あんなに認め合っていたのになぜ―――・・・?
今の時代がこう云う世相だから、兄も殉ずる象(かたち)で時代に呑み込まれていこうとしているのか―――・・・
セシルの内には、様々な思惑が交錯していたのです。〕