≪五節;温情≫
エ:けど・・・この国の要人である者を襲った事実には変わりはないね―――
それによく考えれば、この咎人(とがびと)を救おうとしているのはカルマの降将じゃないか―――
こいつは丁度いい、三人まとめてこの城の地下牢に入れときな!
リ:エルム様―――?!
エ:あとそれと、その牢に鍵はしておくんじゃないよ・・・
なぜか―――って? それは簡単だろう・・・そんなのから一歩でも出れば、脱走・脱獄の疑いがあり―――って、すぐにその場で処断出来るじゃないか。
〔その時のエルムの言葉に、リリアは耳を疑いました。
彼らの苦悩と云うモノをいち早く知り、救ってくれた人が・・・それがなぜこの時こんな言葉を―――
確かに、エルムのこの時の言葉は、ギャラハット達の事情をよく知らないリリア以下の者達からすれば、至極当然のように思えました。
理由の如何はあれ―――彼らはカルマに与(くみ)し、パライソに弓引いた存在・・・
この事実は曲げられようもないのです。
それにエルムは、「御史大夫」と云う官職に就いていたこともあり、
この場・・・つまり、罪ある者を裁く権限を有してもいたのです。
だから、その時のその場でのエルムの言葉は、そう云った権限を持つことを許可された者の言葉―――
しかし、その中には明らかに職務とは違う言葉が存在していたのです。
すると―――エルムの同期と思われる人物からも、彼らのことを擁護するような言葉があったのです。〕
ヱ:確かに―――この国の要人の一人であるタケル殿を襲ったのは大罪ではある・・・
―――が・・・かつて私たちの上司であった「丞相」は、『戦の勝敗は兵家の常であり、一度の失敗をいつまでも嘆くのではない・・・
そうやって悲観に暮れる前に、次をどうしたらよいか―――そのことを考えなさい。』・・・と、よくそう云われたものだ。
斯く云う私やシュターデンなどは、数々の失敗を乗り越え今日(こんにち)の名声を得るに至っている。
よいか―――諸君も心しておかれたい。
これからの戦は、これまでより一層苛烈なものとなるだろう。
だが・・・そこで憶してはならない―――怯んではならない、喩え敵の只中であったとしても、敵将の馘(くびき)を獲る為に勇気を奮い立たせた彼を見給え。
その勇気こそが、時には名のある将を怯ませることが出来ることを、忘れてはならないのだ―――!
〔ヱリヤは・・・自分たちの過去の失敗談を詳らかにしたのと同時に、
警戒が厳しくなっているこの時に、無謀とも思える勇を奮い立たせたカインを称賛しました。
そしてそれは、勝利に酔いしれていた諸将の気を引き締めたのです。
一時の勝利に酔いしれたとて、そのことが油断を生じさせ―――憂き目に遭ってしまう・・・
それが今回のカルマであるとし、いつまたそれが逆転し、自分たちがそうならないとも限らない・・・それを説いたモノだったのです。〕