≪六節;私情≫

 

 

〔けれど・・・タケルからしてみれば、今回のカインの心情は痛いほど分かっていたのです。

 

それと云うのも―――タケルは以前に、カルマに奔(はし)ろうとした当時にカインに会っていたのです。

 

 

この世も・・・愈々(いよいよ)混沌極まれり―――

両者の考えはほぼ一致していました。

 

そんな時にカインは一計を案じ、当時をしてタケルと自分以外に誰も考えもつかなかった―――「埋伏の毒」を実行に移そうとしたのです。

そして当時カインに会ったタケルは、彼の眸にある種の憂いを見ていました。

 

誰しもがやらないなら―――自分がやるしかない・・・

云わば、諦めにも似た決心をした、自分と同じ境遇を歩んだ人物を見て、当時のタケルは何を思ったのだろう・・・

 

そして、その時の想いが、今にして口に出てきたのです。〕

 

 

婀:あなた―――大丈夫ですか・・・

タ:ああ―――・・・心配ない。

  それにしてもエルム・ヱリヤのご両人には助けて頂いた・・・。

 

  考えてもみよ―――婀陀那・・・

  あの三人は、本来その場で刎首されて当然であるのに、エルム様はこの城に監禁することを決めおかれた―――

  それに、ヱリヤ様は殺伐とした空気を払うため、カイン殿を褒めおかれた―――

 

  だが、ワシのように彼らのことをよく知る者が、喩え当事者だとしても擁護するのは問題があるのだ。

  ひょっとすると―――カルマに通じているのでは・・・と、云うな。

 

  そんな詮索は、折角一枚岩になりかけた信頼関係・結束共に罅(ひび)を生じさせるところとなり、それはカイン殿とて望むところではないのだ。

 

  だからこそ・・・ワシは云い辛かった―――

  そこを、あの方々はワシになり代わり、彼らを擁護してくれたのだ。

 

 

〔実を云うと、タケルもカインと同様の策を(当時)練っていたものでした。

そんな時に―――カインと会い、意見を交換しようとした・・・

けれど、もうすでにその時、カインはカルマに奔ることを決意し、実妹であるセシルにも語っておかなかったのに、

タケルは一目会っただけで、彼がこの行動に移すことを看破していたのです。

 

だからこそ―――タケルにはカインの心情は痛いほど分かりました・・・

それに、この時自分の前に現れたというのも、総ての清算を自分の命で贖(あがな)おうとしていたから・・・

 

そしてそれは―――エルムのみならず、ヱリヤも心得ていたのです。

 

それと云うのも・・・そうだと判る彼女たちの会話に、それはよく現われていたのです。〕

 

 

ヱ:随分なご英断だったな―――シュターデン。

 

エ:ナニ・・・あの処置でも、心苦しいと思っているんだよ―――私は・・・ね。

  あの子たちは、云わば自分の本意ではないことをやってきた・・・

  カルマの奴らを信用させるために、この国の兵士たちを数え切れないほど殺してきたんだろうさ・・・

 

  そんなねえ―――返り血を浴びてたあの子たちを見ていると・・・どこかしら哭(な)いているように思えてさ・・・

 

ヱ:返り血が―――涕に見えてしまったか・・・

  ああ云うモノを見させられると、辛いものがあるな・・・

 

  ―――だからなのか、牢の鍵を閉めずにおいたのは・・・

 

 

〔確かに、一囚人を牢に収監するのに、鍵を閉めずにおく―――と、云うのは異例の事態でもありました。

 

しかし、その場でのエルムの言葉にもあったように、そんな処から一歩でも外に出ればすぐさま処刑してしまえる・・・

そこに諸将たちは注目し、云わばエルムの言葉の綾(あや)にかかってしまったのです。

 

けれども・・・当然その言葉の裏を読んだ者もいるのはいたのですが、

その人物たちもタケルと同じく―――彼らの事の次第に至った事由をよく心得、その場で口を差し挟むようなことはしなかったのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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