<第百二十八章;和平への条件>
≪一節;サライ国からの特使≫
〔宗教国家・サライ国よりの特使来(きた)る―――その報は瞬くの間にパライソ国中を駆け巡り、そのことは極(ごく)自然に女皇の耳にも入って来ました。
するとアヱカは―――この時を待っていたと云わんばかりに、現在ウェオブリに駐在している、自分の臣下―――タケルを呼び寄せ、
サライからの詰問に対抗し得るべくの策を練ったのでした。〕
タ:やはり―――来ましたか。
ア:ああ―――だけど、私からしてみればやや遅いと云っても過言ではない。
どうやらかの国においても、今回私が踏み切った判断には、賛否両論があったように思える。
例えば・・・今回は私たちが勝てたのだから、どちらも良しとは云えない―――と、云う・・・ね。
タ:戦に“善”は存在しない―――と、云いますからね。
それに、現実的にそのような言(げん)を吐いた者の中に、「戦嗜好者」「独裁者」がいたらしいですから・・・
ア:フフ―――なら・・・私も彼らと似たようなものだね・・・
タ:陛下―――・・・
ア:いや、莫迦なことを云ったよ、別に気にするほどのことでもない。
〔実際的に、今回の「第一次北伐」の様な大規模な戦争は、この時代では初めてでした。
しかし―――このような争い事を好まない国家・・・サライからの外交特使が来るであろうことを、
アヱカやタケルは、少なからず予測はしていたようなのです。
ところが・・・当該国より、そのことがあったのは―――戦時中や戦後直後などではなく、
「第一次北伐」が終了してよりしばらく経った後のことだったのです。
このことを、アヱカにタケルの二人は「やや遅い」・・・と、していたのです。
その理由と云うのも、歴史の文献を紐解いてみれば、サライ国は女禍が治めていた時代―――
やはり少なくはなかったカルマ国との紛争の、その最中や戦後直後に、互いに戦争を止めるように説いたり、
なぜ戦争を起こさなければならなかったか―――などを問い詰めていたからなのです。
それが・・・今回に限っては、当該国よりの横槍も入らなかったし、戦後になってもしばらく経った後・・・に、とは―――
そのことを、アヱカはある仮説を立てて立証してみたのです。
それが―――今までは、カルマが「至上の悪」として捉えられてきていたのが、今回のパライソ国は古代帝國シャクラディアほどの大義はなく、
何(いづ)れも悪・・・つまりは喧嘩両成敗ではないか―――と、してみたのです。
とは云え・・・取り敢えずは―――サライ国の特使よりなされる質問に備えるため、議論は交わされたのです。〕