<第百二十九章;聖都へ・・・>
≪一節;戸惑い≫
〔早馬の伝令を受け、急遽シャクラディアに戻った婀陀那は、足早に夫でもあるタケルの下へと行き、
自分を皇都に戻らせた、事の次第を質してみることにしたのです。〕
婀:あなた―――火急の用件ありと聞き、急遽馳せ参じましたが・・・
妾がウェオブリを空けている―――と、カルマめに知られますと大変なことになりまするぞ。
タ:そのことについては所存ない。
これからワシが、お前になり代わり当方面の指揮をせよ―――との、アヱカ様からのお達しもある。
婀:あなたが―――・・・それならば安心ではございますが、果て・・・ならばなぜに妾が姫君に呼ばれて・・・
タ:そのことなのだが、どうもあの方には思う処があるらしく、此度のサライへの外渉団に―――お前を伴って・・・と、云う事なのだ。
婀:なんと、サライに・・・
また、彼の国の気に障るようなことを―――
タ:そもの原因とは、あのことだ―――・・・
〔大将軍の地位に収まり、政治・軍事的にも最高決定権を持つ婀陀那が、昨今のカルマとの合戦で本営となっている任地から呼び戻された理由・・・
その理由を夫から聞かされ、今回の政策の一環が女皇アヱカ自らのモノであり、そのことを婀陀那を伴って成し遂げようとしていることに、
さすがの婀陀那も気負う処があったようなのですが―――・・・
そこをタケルは、今回こうなった事の次第を簡潔に述べることにしたのです。
それを聞くに及んだ婀陀那は―――・・・〕
婀:そう云う事でしたか・・・やはり妾の一存だけではまずぅございましたかな。
タ:そこもあるだろう―――・・・が、ワシが気にしているのはそこではないのだ。
婀:うん? それはどう云う事なのです―――
タ:実はな・・・今回のお前とアヱカ様の身分―――大鴻驢緒麗美耶殿の配下として・・・なのだ。
婀:なんと?? 妾が、元々の部下である者の―――?!
タ:不服、なのか。
婀:いえ・・・そう云うわけではないのですが―――
ならば、どうしてまたそのようなことを・・・?
タ:うむ―――そのことなのだが、今回ばかりはワシも憶測の立てようがない。
ただ・・・思う処としては、アヱカ様にはサライに旧知の人間がいらっしゃるのではないか―――と、云う事だ。
婀:・・・と、云うことは―――その方に会いたいがため?
タ:そうとも捉えられなくもないのだが、ならばお前を伴う理由がそこにはない―――
・・・と、すればだ、今回はお前にも関係がある―――恐らく、あの方はその人物とお前を意図的に会わせようとしているのではないか・・・
ワシにはそんな気がしてならないのだ。
〔何やら神妙な面持ちで、自分の胸中に思う処を妻に述べてみるタケル―――
すると妻は、自分所縁の人物がサライにいて、その人物がパライソ国女皇と知り合いであることに、驚きと不思議さを感じているのでした。
自分所縁の人物が・・・どうして他の国に―――?
そのことをアヱカはいつ知り、知った時点でどうして自分に相談してくれなかったのか・・・
而してその事由は、聖都・ヴェルフィオーネにて明らかになってくるのです。〕