≪三節;古え談議≫
キ:それより―――陛下、どうして今こちらに? アヱカという姫君とリンクなされていたのでは・・・
女:ぅん? うん―――ちょっとね、これのチカラが必要になってきてしまって・・・それで現在、一時的に器のほうを離れているんだ。
キ:『カレイド・クレスト』・・・・陛下が一時的に亡くなられる直前に、ご自身の総てを凝縮された宝珠ですよね・・・・
でも、どうしてこの宝珠のチカラが・・・・?
女:それは―――言い難(にく)い事なんだが、どうやら北のドルメンに異常があったらしいんだ。
キ:「北」の―――? あの・・・ハルヴェリウスのラビリンスで??
しかし、かの地には、丞相閣下の『ヴァーミリオン』が安置されているはずでは―――ま、まさか??
女:・・・・・うん、そこに安置されているはずの、あの宝珠の気配が―――今はなぜかしら、コキュートスの位置から漂ってきているんだ・・・。
キ:コキュートス―――・・・どうして彼奴めの居城から、丞相閣下のお能力(ちから)を封じたモノが―――???
女:さてね・・・だが、今はそのことを憂慮すべきではない。
キ:――――と、申されますと・・・?
女:うん、実は・・・・近々私の宿主(ホスト)に、私自身の事を知らせておこうと思うんだ。
キ:アヱカ―――様・・・に、ですか・・・。
女:うん・・・これ以上騙し続けるのは、さすがに忍びなくてね。
キ:「騙す」―――だ、なんて・・・それはさすがに、ご自身を卑下しすぎでございます!
女:いや―――違うよ、キリエ。
私が生きていた時代で決着のつかなかったことを・・・それを違う時代の、関係のない者までをも巻き込んでしまっている。
しかも―――今においても、本来の目的すら語っていない・・・これを「騙していない」とでも言えるだろうか?
キ:―――・・・。
女:それに・・・こんな頼り甲斐のない者が、『皇』で『仁君』だって? 全く・・・聞いて呆れる。
キ:じ・・・女禍様・・・
女:だって、そうじゃないか。
『種族平等法』にしろ、『私田法』にしろ・・・あれらの法の数々は、私の姉でもあった丞相の提案を私が受理しただけで――――
キ:いいえ・・・いいえ! そんなことはありません!!
「良策も、取り上げてもらわねば愚策にも劣る事」―――と、丞相閣下も常々そう申されていたではありませんか―――!!
女:そうか―――そう・・・だったな。
キ:も・・・申し訳ございません。
曲がりなりにも、私如きが意見をするなどと・・・・差し出がましいことを・・・・
女:いや、いいんだよ、キリエ・・・・お蔭で目が覚めた気分だ。
フ・・・思えば、私は恵まれ過ぎている・・・丞相や、お前達のような優れた良臣―――
そして、こんな私でも親しんでついてきてくれた民たち・・・
こんな・・・恵まれ過ぎていることに、私はもう少し慎まなければならないよ。
〔そこには―――喩(たと)え『皇』たりとて慢心するではなく、しかし立場上弱い者達にココロを割いてやれる者―――『仁君』が紛れもなくいたのです。
何分にも驕りもせずにただ―――ただ―――慎ましやかなる者が・・・
そして、その昔からのなされように、古来からの臣下は、
「ああ・・・やはりこの方こそが我らの主であり、あの姫君こそがこの方の魂を―――崇高なる意志を継ぐに相応しいのだ」
と、思っていたのです。
そして―――ところ変わって、アヱカは・・・〕
ア:(昨日は大変な一日でしたけれど・・・今日は平穏無事でなりよりでしたわ。)
それにしても―――・・・あの声の方、一体どなたなのでしょう?
〔未だに諸事情が上手く飲み込めていないアヱカは、姿の見えない―――声だけのする存在に、
今更ながら・・・のようですが、少なからずの興味を抱き始めたようです。
そして―――明けて翌朝。
朝のお支度をしている時に、またもあの声が―――・・・〕
影:<やっ―――おまたせ・・・昨夜はよく眠れたかな?>
ア:あっ――――あなたは・・・(わたくしの・・・気の所為ではなかったのですね・・・。)
影:<ははは・・・頼むから、そう邪険にしないでおくれ、アヱカ。
実は・・・今日君に頼みがあるのだが・・・聞いてもらえるかい?>
ア:<また・・・わたくしの身体を借りる―――と、言うご相談なら、丁重にお断りさせて頂きとうございます。>
影:<相変わらず・・・厳しいね、アヱカ。
実は―――君も兼々疑問を抱いている、私自身の事なんだけども・・・>
ア:<えっ―――あなた自身が・・・何者であるか、語って頂けるのですか?>
影:<「語る」―――か・・・まあ確かに、私自身から何者であるかを語ってもいいんだけれど、
それでも君は、納得いかない事が大半にはあるだろう・・・。
そこで―――だ、君に・・・いや、君の曇りのないその眼(まなこ)で、君自身が何者であるのかという事と、
これから自分がしなければならないことを、確認して欲しいんだ・・・。>
ア:な――――なんですって?? わ・・・わたくしが何者で・・・これからしなければならない事??
何の事を・・・・言っているのか、さっぱり――――
影:<・・・その事を識る―――第一の条件として、君にはこれから或る場所に行ってもらいたい・・・・それも、君一人で。>
ア:えっ??! 或る・・・「場所」? 一体・・・どこの事なのです?
影:<それは―――・・・>
〔それこそは―――
紛れもなく、あの“場所”――――〕
ア:し・・・『シャクラディア』―――ですって?!
でも・・・それは、古代遺跡で―――しかも、この国の最重要文化財として、指定保護されているという・・・・
影:<それの事なら、『学術調査』と称しておけば、事足りるのじゃあないかな。
現に、最近全く同じ事を、三人が行っていることだしね・・・>
ア:『学術調査』・・・に、『三人』??!
はっ―――!そ・・・そういえば、キリエさんは?コみゅちゃん、乃亜ちゃんは??
あぁ―――いけないわ・・・わたくし・・・自分の事ばかり気になってしまって、あの人たちの事をすっかり―――・・・
影:<そのことなら・・・何も気に病むことはない。>
ア:ええっ―――? どうしてなのです?
キリエさんや・・・ましてやあの子達に、何かもしもの事があったら・・・わたくし、どうすれば――――
影:<なぁに―――大丈夫、あの三人の事に関しても、そのドルメンに行けば判る事だよ。>
ア:―――そうですか・・・分かりました。
でしたら、紫苑さんにそう申し上げておきましょう・・・。
影:<ああ、そうそう―――あの人に言うのだけは、よしてくれないかな・・・>
ア:ど―――どうしてでございます? 第一、今・・・頼りにならざるを得ないのは、あの方をおいて他は・・・
影:<あの人は―――・・・君のお目付け役でもあるだろう?
それに、もしこんなことをあの人が聞いて御覧・・・絶対、君に付いて行くというのじゃないのかな。>
ア:はぁ・・・まぁ、それは確かに・・・
影:<それに、このことは君と私との間の問題だ、だから―――関係のない人間を巻き込みたくはないんだよ。>
ア:そう―――・・・ですか、分かりました・・・。
〔その声の存在は、今にしてようやくに、アヱカに自分の事を「語りたい」―――と、そう言ったのです。
けれども、それは彼女一人にだけであって、アヱカ以外の人達に自分の事を知られるのを、極端に嫌っていたようにも思えたのです。
そのことに・・・『それほどまでに大事な事なのだろうか』―――と、そう思ったアヱカは、
自分のお目付け役を通さずに、この国の侍中の一人―――セキに、この事を申し出たのです。〕