<第百三十章;ミトラ>

 

≪一節;隠された意図≫

 

 

〔アヱカがこの時期に、サライ国と外交をしようとした目的とは、当初は誰もが先般あったカルマとの戦役に対し、

そのことについての釈明をするものだ―――と、思われていました。

 

けれども、それは外交一般を担う大鴻驢の仕事であり、何もアヱカや婀陀那が身分を隠してするほどのことでもなかったのです。

 

ならば―――なぜ・・・夜の闇を・・・人の眼を憚るようにして、共に入国した外渉団とも別れて、別行動を起こしていたのか・・・

アヱカは・・・どこに向かおうとしているのか―――・・・

 

それは・・・緒麗美耶の率いる外渉団や―――彼女と折衝をするはずである大司教・ゴウガシャ、そして、この国を治める立場にある・・・教皇・ナユタ

そんな者達のいるヴェルフィオーレのすぐ近くに建つ、礼拝堂・・・

 

恐らく、この国や宗教観からしても、最も重要な位置を占めるであろうこの一施設を・・・

この国の、誰一人として案内をつけずに、向かおうとしている女皇・・・

 

しかも、そんな重要な建物ならば、警備も厳重なはず・・・

その通りに、この建物には重厚な扉と―――教皇のお許しがないと解かれない施錠・・・

それに加え、魔法での解呪がないと開けられない仕組みになっていたのです。

 

しかし―――・・・数々の手続きを踏まないと開かれないはずの、この扉の封印を・・・

女皇は、あたかもこの国の司祭や司教であったかの如くに、簡単に開いてしまったのです。

 

その余りな出来事に、目を丸くする婀陀那・・・

けれども―――アヱカもまた、この建物内に入ってすぐに、ある異状に驚くのです。〕

 

 

ア:あ・・・っ―――これは?!!

婀:いかがなされたのです―――

 

ア:・・・ない? ―――どうして・・・

婀:(?)なにが・・・ないと?

 

 

警:―――おい!そこにいるのは誰だ!

  それに・・・どうして扉が―――教皇様のお許しはあったのか!?

ア:しまった―――

 

婀:むうん―――!

警:ぐおっ―――?! むぅぅ・・・

 

 

〔礼拝堂に入ると、まるで何かを確かめるかのように、内部を見渡すアヱカ・・・

しかし、なぜかそこにはアヱカが求めていた何かはなかったらしく、思わず声を出してしまったのです。

 

すると―――その声は当然、この施設を警備する当直の耳にも届き、声のした方向に向かってみれば・・・

この国の偉い方でも、開けるのにひと手間かかるこの扉を、開けて内に入っている者がいる―――

それを、気付かれてはまづいと思った婀陀那が、警備の当直の者に軽めの当て身を行い、彼を気絶させたのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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