<第百三十一章;密約>

 

≪一節;どこか似た存在≫

 

 

〔自分が使える主君のお誘いを受け、急遽サライ国を表敬訪問した婀陀那は、

この大陸に伝わる「古(いにし)えの皇」と同時期に、歴史と云う文化を紡いできた人物の容貌に、

強くも激しい衝撃を受けていました。

 

なぜならば―――・・・

 

顔の骨格と云い、目鼻立ちと云い、どことなく自分によく似ている・・・

やもすれば、自分がこの人物の生き写し―――と、云っても差支えないほどに・・・しかも、その咽喉より絞り出される声までも?!

 

けれども、このどれよりも、自分がこの人物の生き写しではないかと思ってしまえる特徴が、そこにはあったのです。

 

そう、この人物・・・ミトラと呼ばれたる人物も、また―――オッド・アイ・・・

しかも、婀陀那と全く似ている・・・左はエメラルド・グリーンで、右がピジョン・ブラッド―――

 

この、思ってもいなかった事実に、直面してしまった婀陀那は、ただ戦慄(わなな)くばかりでした。

 

それを見たミトラは―――・・・〕

 

 

ミ:フッ・・・今更私の貌(かお)を見て驚くと云うのは、失礼と云うものではないかな。

  それに君は・・・朝起きて鏡を見るたびに、いつもそうしているものなのか―――

 

ア:その位にしておあげ・・・今回の処は、私にも非がある。

ミ:全くです。

  そも、わが盟友におかれては、このような悪戯を如何様にして思い立ったのか・・・

  この私とて、心中穏やかならぬ境地です。

 

ア:悪かった・・・。

  さて、婀陀那さん―――この人物が今回君に会わせたかった、サライ国初代教皇ミトラと云う人だ。

  それに今回、君にもあまり表立って欲しくなかった理由がここにある。

  考えて見て御覧―――新しい世代の人たちには、ミトラのことは口伝でしか知られていないけれど、彼らの上に立つ幹部たち・・・

  それも、特に現・マルシェビキコプスであるゴウガシャや、現・教皇であるナユタは、彼女のことをよく知っている。

  君の姿を見れば、必ずや心中穏やかならぬことになるだろうからね。

 

 

〔サライの建国及び、マハトマ教の創設者として歴史に名を残した人物に、婀陀那はただ、ただ、忘我の境地にありました。

・・・が―――だとしたらなぜアヱカは・・・

いや、それよりも―――・・・〕

 

 

婀:ちょっ―――ちょっと待ってくだされ? いかな妾とて少々頭が混乱しておりまする・・・

  そこにおられる御仁が、サライ建国の祖にしてマハトマ教の創設者であり、さらには妾と全くよく似た容姿をもっておることは、よぅく判りました・・・。

 

  ですが―――ミトラ殿、そなたは先程・・・姫君のことを「女禍」と?!

  古代の仁君であられた方が、どうして―――

 

ミ:・・・そのことを説明するには、少々時間を要する。

  だが君の方でも、このことは耳にしたことがあるのだろう。

 

『人心麻のように乱れ 混迷が世に蔓延する世にて 仁君の御霊 甦るらん』

  と―――・・・

  あの流布は、私を始めとする当時の有志達が、まさにこの時の為にしておいたものなのだ。

 

  そして、我らの思惑通り、仁君と呼ばれた私の盟友が、この世に再びご降臨なされた・・・

  これで納得がいったかな。

 

 

〔納得がいくもいかないも、ただその伝承は広くこの大陸―――ガルパディア大陸に、その昔から根付いていただけに、納得せざるを得なかったのです。

 

古代人の叡智を結集させ、まさにこの時代のことを予知していたかの如くに甦った仁君の魂は、

確かに自分の主君に纏わりついていた風評宛(さなが)らに、時代を一つに纏めようとしていたことも、また事実だったのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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