≪四節;つれない伴侶≫
〔かくして、二国間の実力者同士が提携した秘密協定は、予(かね)てから定められていたかのように、
また、敵対している国に知られることのない様に、水面下で動きは活発化されていたのです。
そんな最中(さなか)・・・サライから戻ってきた婀陀那は、自分の伴侶であるタケルにある相談を持ちかけようとしていました。〕
婀:あなた・・・少しよろしいでしょうか―――
タ:ちょっと待ってくれ・・・どうした、また改まったりなぞして。
婀:そのことなのですが・・・此度の、姫君のお誘いによりサライに従事した時のことなのです。
タ:ああ・・・だがそのことならば、緒麗美耶殿の報告にもあったように―――・・・
婀:それが・・・実は、妾達は緒麗美耶達との会談の席に同席していなかったのです。
タ:ふうむ・・・これはどうやら、詳しく聞いた方がよさそうだな。
〔自分のよき伴侶ならば、今回自分が体験したことを判ってくれるかもしれない・・・
そう思った婀陀那は、その当時見聞したそのままを、事実を曲げることなくタケルに話したのです。
ところが―――タケルの反応は意外にも・・・〕
タ:そうか・・・宗教国家の創設者がお前にそっくりで、伝説の「古(いにし)えの皇」がアヱカ様ご自身だ・・・と。
婀陀那―――随分と疲れているようだな。
婀:あなた―――!妾は決して虚言を申しているのでは・・・
タ:判っている―――お前が何より、そんな戯れを述べる者ではないことを、ワシは知っている。
だが、今そのようなことを広めて何とするのだ。
確かにあの方には、そのような風評がついて回っている。
しかし、世には己の目で見たことですら疑わしいとする者も少なくはないと云うのに・・・
それを、国政の中心にあるお前が幻想的なことを申していては、下の者への示しがつきにくくなってしまうぞ。
だから、このことは・・・当面はずるいとは思われるかもしれんが、公言すべきではないのだ。
〔冷やかにて一笑に附すタケル―――でしたが、衆心をよく掴んでいた彼は、誇大な噂を好むのも民衆であるとし、
婀陀那に諭す一方で、彼の内にひそませているある種の主への疑問も判るモノだとしておいたのです。〕