<第百三十二章;アンダーグラウンド>
≪一節;ミトラその影響力≫
〔自分たちよりも先んじてべルフィオーレへと入り、教皇が座るべき席に陣取る人物に、
実質上のこの国のトップでもある教皇ナユタと、彼を補佐する大司教ゴウガシャは、戦々恐々としていました。
それもそのはず、彼方にいた人物とは、建国の祖にして教興の祖でもある方だったのですから。
ですが・・・彼らにしてみれば、そんな大人物がどうしてこの世に―――復活し得たのか・・・
彼ら自身、若き砌(みぎり)に―――その人物が自らに呪いを課して、石像になってしまったのを知っていただけに・・・
しかし、そんな彼らの思惑とは別に、ミトラはなぜ今日(こんにち)のような事態になったのかを、述べるに至ったのです。〕
ミ:皆も・・・特にナユタとゴウガシャにおいてはそうであろうが―――
私が今ここにこうしていられるのは、あるお方のご加護により、恩赦を与えられていると云った方が判り易いか。
まあ、詳細はあとで述べて差し上げるが・・・
今一つ、諸卿達に云っておかなければならないことは。
これからある大戦(おおいくさ)に関与をしてはならない―――と、云うことだ。
物資や兵器などの救援策は勿論のこと、戦は起こすものではない―――と、云う非戦論を展開させることも禁ずる。
ゴ:でっ―――ですが・・・しかし・・・非戦・非暴力は、この国が当初から掲げている矜持みたいなものではありませんか。
ミ:なるほどな・・・ならば、諸卿らに改めて聞いてみよう。
前の大戦(おおいくさ)よりここ数万年、群雄が割拠して「列強」なるものを創りあげ・・・それで争いが収まったのかな。
答えることができまい―――なぜならば、この大陸を一つにまとめ上げる 真の主 が不在だったからだ。
世に天は二つとは要らぬ―――
それに、我が国が非戦論を展開していたのは、国内に限っての話だ。
なにも諸外国にまでこちらの考えを押し付けようなどとは思ってもいない。
ナ:けれども・・・前の大戦では、『古の帝國』であるシャクラディアは、我が国の提案を受け入れたではありませんか。
ミ:あの大事(だいじ)を成し遂げたのはアソウギだ。
ただ・・・タイミング的には早すぎた―――
私は、それをするのはもう少し時期を待て―――と、云ったのだが・・・
あいつには、大勢の命が損なわれていくことに耐えられなかったのだろう・・・。
そこは判る―――判るにしても、あいつは私が制止(と)めるのも聞かずに単身で皇に会いに行き、これ以上戦をすることの愚を説いたのだ。
私の盟友も・・・そこの処は判っていたのだ・・・だからこそ、葛藤をした―――
その結果、盟友はアソウギからの申し出を受け入れ、ガルバディア大陸を統一し損ねたのだ。
判るのか・・・お前たちのような若造に―――
この惑星(ほし)には、ガルバディアだけではない―――他の大陸が同じようにしてあり、
そこでもここと同じように、一つにまとまる為の争いが展開されていることを・・・。
この・・・ガルバディアと云う一地方を平定するのに時間を割き、地球と云う一つの天体を統一する見込みを失った責任を取る為、
私は自らに石化の呪いを課し、盟友である皇・女禍に詫びたのだ!!
〔旧き良き友であった皇・女禍に、ミトラは詫びたい気持ちで一杯でした。
それに・・・現在までに永く続く、混迷の世を創り出したことも、自分たちの業によるものだとも理解をしていました。
だからこそ盟友である皇は、この惑星初めての統一国家を築きあげることを決意し、また邁進していたモノだったのに・・・
自分の同志であったアソウギの先走りにより、あと一歩と迫った統一の道を妨げてしまった・・・
新しい時代を創り出そうとしている時には、犠牲と云うものは多く付きまとってくるもの―――
そうアソウギに諭しても、その犠牲は当時としては目に余るものがあった・・・
そのことはミトラも女禍も判っていたはずだったのに、女禍もその犠牲の多さには目を背けられなかったのだろう・・・。
史実として、当時司教であったアソウギを仲介役にして、シャクラディアとカルマは形だけの和議を結び・・・
それから約七万年―――大陸の統一とは程遠い、群雄割拠の時代が訪れてしまったのです。〕