≪二節;タケルの疑問≫
〔予(かね)てより、思う処があったタケルは、適当な口実を設けて、女皇アヱカにとある相談を持ちかけようとしていました。
片やアヱカの方でも、ミトラとの非公式な会談の末、密約を交わしたことで、ある行動に移ろうともしていました。
そして―――タケルが、自分の主と対面をしたいとの旨が受理され、
今現在ではアヱカの影武者を務めている、自分の配下である「禽」の一人―――ルリから、現在は例の場所にいることを教えられ、
さっそくその場所・・・シャクラディア城裏庭にある、農作物試験場に足を運んだのです。
するとそこには―――今回は何をするでもない、ただその農場を佇んで見ている人影が・・・〕
タ:―――やはり、ここにおいででしたか。
ア:ああ・・・タケルか。
見て御覧―――すくすくと育っていく彼らを・・・
植物と云うのは本当に素晴らしい。
かつて、私たちが穢してしまった大地を、その素となってしまった毒を自らの身体に取り込むことによって浄化してくれている。
それに・・・本来ならば、まだこの惑星は、草木一本と生えない死の惑星・・・だったのだろうにね。
それがここまでになるのに―――非常に多くの犠牲が出てしまった。
一見して清々しいこの光景はね、多くの犠牲の上に成り立っていると云っても過言ではないんだよ。
〔女皇は・・・いつものように農作業に精を出さず、ただ―――ただ―――緑の大地を・・・
いえ、緑に甦った大地を、見つめていました。
それに・・・どうもその方には、タケルが何をして自分の下へと来ているのか、予(あらかじ)め知っていたようにも見え・・・
過去に、人間たちの身勝手な行為により、総ての動植物が死に絶えたことがあるとの示唆が、その方の口からなされたのです。
そのことを耳にしたタケルは、本来の目的よりも先に、ここはやはりあることを確かめた方がよさそうだ―――と、
まるで当初から自身が抱いていた疑問を、その方に投げかけてみたのです。〕
タ:あなたはもしや・・・女禍様でいらっしゃいますか。
ア:・・・婀陀那さんから聞いたんだね。
まあ―――今回のことは、彼女を伴ってしまったことから、直(じき)に君に知られてしまうものだと思っていたよ。
それで―――この事実を知ってしまった君は、このあとどうするのかな・・・
タ:それではお一つだけ―――それ以上は聞きませぬ。
アヱカ様は・・・ワシの主君であるアヱカ=ラー=ガラドリエル様は、実在する人物なのでしょうか。
ア:なるほど―――確かに・・・そう疑いたくなるのも無理はないね。
けれども敢えて云わせて貰えるとするならば・・・アヱカと云う人間は、現在を生きる者にして実在するけれども、
この私は・・・女禍と云う存在は、魂魄に過ぎない。
だけど、今に限らず今までにも存在し続けた・・・と、云うことは―――
タ:アヱカ様のご意思もあった・・・と―――
ア:その通りだよ・・・彼女には、感謝しきれない処がいくらでもある。
〔タケルも実際のところ・・・アヱカに関しては半信半疑でした。
それもそのはず、亡国とはいえ一国の姫君であった者が、大国だった「列強」の王や官と対等に渡り合えたのは、何者かの示唆があったからではないか―――
それに、前述のようなことを得手とするのには、それだけの経験と実績が豊富でなければ可能とならない。
況(ま)してや、自分の主君は、普段見ている分には女官や女吏―――もっと極端に云うのならば、この国の住民とさして変わらなかった・・・
なのに、いざ政局にさし当るとなると、経験豊富である自分たちでさえ舌を巻くほどの辣腕をふるっていたのですから。
しかし・・・それもこれも、このアヱカと云う女性に付きまとっている風評―――「女禍の魂を受け継ぐ者」・・・
この一言が、周囲を納得させられるだけの要因にはなっていたようです。
けれども・・・もし―――その人が女禍本人であるとするならば・・・?
その大いなる秘密は、ある夫婦だけが握る事となっていたのです。〕