<第百三十三章;大抜擢>

 

≪一節;女皇の思惑≫

 

 

〔その日は、ただ・・・ただ―――慌ただしさだけがありました。

 

とある政策と主君への疑惑を胸に、女皇陛下に会っていたタケル―――

この度の外交で、サライ国にいる、旧くから親交のあった者と密約を交わし、一大決心をしたアヱカ―――

北部に駐留する諸将諸官の意見書を片手に、女皇陛下に奏上しようとしていた婀陀那―――

 

総ての事象点は、シャクラディア城で起こりつつありました。

 

そしてここにもう一組、女皇陛下に会おうとしている・・・会わなければならない者達がいたのです。〕

 

 

エ:ねぇ〜ねぇ・・・ってば、お前サマ―――

ヱ:現実としてママーシャの墓所が暴かれたのだ。

  このことはすでに女禍様の知る処となっているはず・・・ならばこそ、あの方の意見を聞かなくてはならない。

 

 

〔『帝國の双璧』であるヱリヤとエルムは、ある一大事件の報告と、これからの対処を仰ぐために、シャクラディア城へと来ていました。

しかし、彼女たちの行動は、ある物事の前に見送られてしまう結果となってしまったのです。

 

それと云うのも・・・自分たちの意見陳述を聞いてもらうために、女皇陛下の私室に入ってきたヱリヤとエルム―――

しかしそこには、すでに先客・・・タケルがおり、彼が主君に対しての意見陳述を為そうとしているようにも見えた・・・

だからヱリヤは―――〕

 

 

ヱ:タケル殿・・・先客がいたのか。

タ:ああ、これは・・・ヱリヤ様にエルム様。

  お先にどうぞ、ワシの話しは長くなりますので・・・

 

 

〔女皇陛下の寵臣が、自分たちよりも先んじて謁見をし、自らの政策論争を展開させようとしていた―――

けれども彼は、これから自分が述べようとしていることは時間がかかることともし、急報をもたらそうとしているヱリヤにその席を譲ろうとしていたのです。

 

このことに、ヱリヤは内心感謝し、この度自分たちが見てきたことの一部始終を話そうとしていた矢先に―――・・・〕

 

 

婀:失礼致しまする―――火急の用件あって、陛下にお取次ぎを願いたい。

ヱ:大将軍殿―――火急の件とあっては仕方がない、そちらから用件を済まされよ。

 

ア:それより・・・火急の用件とは、なんだろう。

 

婀:この度―――陛下のご英断により、サライの国へ特使を派遣なされました・・・。

  しかし、このことは未だ他の者は知らぬので、今、妾が口外するのは憚られることなのじゃが・・・

  実は・・・あの外渉団に、姫君と妾は潜んでいたのです。

 

ヱ:な―――なんだと? だが、しかし・・・いや、待てよ?

  そう云えば、あの日程で・・・大将軍殿が体調を崩された―――と、その代わりを務めたのは、そなたの旦那の・・・

  それに、やはりあの日程での陛下は・・・やはり影武者の―――?

 

 

〔あの数日間で、ヱリヤのみならずとも、何かしらの異変を感じ取っていたのは確かでした。

とは云っても、その異変によって何かが変わって云った―――と、云う具合でもなく、日常宛らが過ぎたのですが・・・

 

ではなぜ―――この時期に、国の事実上の施政者に、最高顧問が宗教国家へと出向いたのか・・・

それは、当事者の一人でもあった婀陀那から語られることとなり・・・〕

 

 

婀:先頃の、サライ国の訪問で、陛下はある方と会われた―――

  しかしそれは、あの国の統治者ではなく・・・創始者。

 

エ:ええっ? 統治者―――って、教皇のナユタだろ? あの方より偉いお人〜〜って・・・ましゃか―――?

 

婀:・・・陛下は、その方にお会いすることにより、ある一大決心を―――カルマとの最終戦を決断なされましたな。

  そのことは当然、これからの朝議で取り上げられることとなりましょう。

 

ヱ:―――なんだと?

エ:奴らとの・・・最終戦―――!

タ:・・・・・。

 

婀:しかし―――それに先立ち、妾を含める北部の諸官達は、とある意見を一つにまとめ、それを陛下に奏上するために連判状を作ったのでございます。

  それが―――これになります。

  なにとぞ、陛下におかれましては、ご一読の上のご英断を・・・

 

 

〔この時期において、婀陀那より語られたことの数々は、総てが初耳だったのでヱリヤやエルムはさぞかし驚いたモノだったのですが、

ただ一人・・・タケルは、そのことに何ら動じる風ではなく、次に婀陀那からなされる言動に注目をしていたのです。

 

そして婀陀那は、ある人物をある官職に推す、推挙の連判状を懐より出し、それをアヱカに手渡したのですが―――・・・〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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