≪二節;聞かぬ官職≫
ア:なるほど・・・よく判った。
この書状は、あとて開いて必ずや目を通すことにしよう。
婀:姫君―――? なぜ今開かれないのです?!
ア:私が構想として描いていることと同じようなことを、今ここで開かなくてもいいだろう。
それよりもタケル・・・確か君は、この私に相談したいことがあると云っていたね。
タ:しかし・・・その前に、ヱリヤ様が―――
ア:構うことはない。
この子が云わんとしていることも、私の構想の内に入っている。
それよりもタケル―――いいのだね・・・
タ:・・・・。
ア:それでは、私がこれから描いている構想のことだけれども。
その初めに、タケルには 丞相 元帥 の位を与えたいと思う。
エ:な・・・っ―――じ、丞相?
ヱ:それに元帥とは・・・聞きなれぬ名称だ。
ア:丞相のことは、ヱリヤやエルムは勿論のこと、タケルや婀陀那さんも歴史を記した書物で読んだことがあるから、知っているはずだね。
そう・・・かつて、私の実の姉が就いていた、治国の上で最高の権限を与えられ、また赦された官職・・・
恐らく、今回婀陀那さんが携えてきた書状には、今の私の言と同じことが連ねてあったはずだ。
婀:お・・・仰せの通りで―――
ア:それよりも、ここにいる誰もが聞き馴染みのない官職のことなのだけれども・・・
“帥”とは、軍務に携わる者ならば判る通り、戦を指揮する者のことを意味する。
そして“元”とは、その下に集う者達をまとめる者の意味でもある。
つまり、私が云わんとしていることは―――・・・
タ:・・・なるほど、つまりワシを、政務・軍務の頂に据え置き、あなた様のお側にお仕えせよ―――と、こう仰られるわけですな。
ですが、それでは他の者達が納得いたしますまい・・・
ア:そう云って来るだろうと思っていたよ、タケル・・・
だが、そんなことを云ってくる者達に有無を云わせないために、婀陀那さんが持ってきてくれた書状が功を奏する。
まだ私は開いては見ていないが・・・恐らくこの書状の発起人は、北部総督のカイン殿。
その彼も一口こう添えているはずだ・・・「元々の敵の我らより、真の国の忠臣を蔑(ないがし)ろにするのは、いかなる所以なるか」・・・と、ね。
〔未開封のままの、今回婀陀那が携えてきた書状―――
けれどアヱカは、その書状に何が認(したた)められているのかを知っていたかのように、敢えて未開封のままとし、
自分の構想として描いていることを語り始めたのです。
而してその内容とは・・・
婀陀那は、イセリアからの相談と云う事もあり、先に封を開いてその書状の内容を見ていたのですが・・・
(それでも尚「未開封」とあるのは、そのあと婀陀那が封をし直したことによるもの。)
女皇アヱカが指示(さししめ)した構想の内容は、その書状とほぼ似通っていた・・・いや、それ以上の内容だったために一同はどよめいたのです。
現在最高の官職にして、人臣位を極めていたのは、「大将軍」たる婀陀那でしたが―――
過去にはそのもう一つ上に、「丞相」という官職が設けられ、当時の皇、女禍を補佐していたのです。
そのことは、実際の当時にいたヱリヤやエルムは周知の事実でしたが、
時を隔てた婀陀那やタケル・・・その他のイセリアやセシル、リリアまでも、歴史書に通じた者であれば皆知っていたことだったのです。
けれど・・・誰一人として知りもしなかった「元帥」のことだけは、アヱカ自らが説明を行い、
ここに―――さらに人臣位を極めたる人物が誕生したのです。〕