<第百三十五章;最終戦への口火>

 

 

≪一節;先送りにされていた懸案≫

 

 

〔ある日の朝議の前に、諸百官を前にしての大演説を行い、満場一致で採択された決議は、翌日を待たずして民衆の前に高札と云う象で現れ、

そこでも数々の物議を醸したてたものでした。

 

けれども、結局の処は・・・タケルが放っておいた『禽』達の情報操作により、民衆の意見は女皇の意志を尊重とする方向にむけられたのです。

 

かくして―――国内では、官と民の承認を受けた朝(ちょう)は、早速にカルマ平定に向けての軍を興したのです。

 

その、まづ手始めとして、前回の北伐で先送りにされたワコウ攻略が急務であるともし、「疾風の将」との名高い紫苑を中心に軍編成が進められ、

ここにカルマ平定の口火とも云える、ワコウ城攻略は幕を切って落とされたのです。

 

一方のカルマも、自領を護るべく―――ワコウの防備には、魔将筆頭ビューネイの麾下であるバルバリシアを派遣し、

ここに、古今稀に見る大戦は展開されようとしていたのです。〕

 

 

ノ:(先送りにされた事案・・・故に、早急な対応が求められるが、しかし―――・・・)

  守りを固めているのは、魔将筆頭の片腕か・・・

ヱ:どうしたのだ―――思案顔で。

 

ノ:ああ、これはヱリヤ様・・・いえ―――

ヱ:気負うことはない、あの城を預かっているのは魔将筆頭の片腕・・・だとはしても、所詮それはビューネイ自身なのではない。

  戦う前の程よい緊張は大切かも知れないが、極度の緊張をしてまだ見ぬ敵に呑まれたのであっては、敗北は必定のモノとなってしまうぞ。

 

 

〔前(さき)の戦で先送りにしてしまった、ワコウ城攻略―――

元来この城は、ノブシゲやチカラ・・・引いては、このほど元帥に昇進したタケルの故国であり都城でした。

 

けれども、激しいまでのカルマの攻勢に屈してしまい、当時の王と、タケルやチカラの実父であった人物を含める数千余名は、

陥落炎上する城と運命を共にしたのです。

 

しかし―――ラージャは滅んでしまったわけではなく、ノブシゲやチカラ以下の有志の者達が抵抗を試み、

大軍が攻め込み難い奥地へ仮の政所を移すなどして、どうにか国としての意義を繋げていたのです。

 

そんな・・・ノブシゲ達の窮地を救ったのが、現在も彼らと行動を共にするヱリヤなのでした。

実は、そのヱリヤもパライソ国女皇からの命を受け、風前の灯火である彼らの保護に回っていたのです。

 

それにヱリヤは―――・・・

普段は少女の形(なり)をしているものの、その実を云うと現在から7万年も前から存在し、

やはり当時からそうであったように、カルマと闘ってきた百戦錬磨の戦士でもあったのです。

 

 

こんな・・・新旧織り交ざったパライソ軍が、緒戦として選んだのがワコウ城・・・

片や―――故国の城を攻むろうとする者と・・・

片や―――旧くからの仇敵と、再び相見えんとする者と・・・

 

果たして、その境地には、いかなるものが存在していたのでしょうか―――・・・。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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