≪二節;緊張の軍議≫
〔それはそれとして―――前(さき)の戦から引き継がれてきた、西部戦線で闘ってきた諸将たちは、
今後この戦線でどのように展開するかを話し合う場にて・・・〕
紫:やはり―――私が考えますのには、補給・兵站戦を確保してから望んだ方がよろしいかと・・・
べ:はぁん? しかしよお―――それだと時間がかかっちまうんじゃねえのかい。
紫:確かに・・・そのことは虎髯将軍からの指摘の通りだと思われます。
しかし、以前に私たちは、彼らの策に振り回され兵糧に大打撃を負わされ、一時は西部方面の軍の運営破綻にまで追い込まれた事実さえあるのです。
ですから、ここは度が過ぎるくらいの慎重さが肝要かと思われるのですが・・・いかがでしょうか。
〔またも、こちら・・・西部方面の軍の指揮を一任されたのは、故国であるヴェルノアにおいても「疾風の将」で知られる紫苑=ヴァーユ=コーデリアでした。
しかし、本来ならば、彼女の用兵の持ち味は、その字(あざな)の意味するが如く・・・速さ―――いわゆる速攻や急襲を得意としていたモノだったのですが、
今回に関しては意外にも慎重を期してのモノだったのです。
そのことに関しては理由がないわけではなく、以前、カルマとの交戦で、相手側の計略に嵌まってしまい、
自分が率いるこの方面の軍の兵糧に、みすみす大打撃を与えてしまった・・・そのことにも起因があったのです。
まさか―――直接勝負に秀でた軍の内に、計略を得手とする存在がいたとは・・・
そこは紫苑自身の読み誤りであり、深く省みなければならない処として捉え、また今回の軍の運営に関しての教訓としていたところでもあったのです。
ところが―――この慎重論に異を唱える人物が一人・・・
それが、左将軍キリエの良き相棒である、虎髯将軍のヒ=チョウ=ベイガンでした。
彼は、自分の剛勇にモノを云わせて、今こそ果敢に攻めかかるべきだ―――と、主張するのですが・・・
彼への援護射撃は、あるどころか・・・〕
べ:けどよぉ・・・そうは云うけどさぁ―――なぁ、キリエさんよ、あんたからも一言云ってくんねえかな・・・。
キ:(まったく・・・)ベイガン―――落ち着いて。
確かにあなたの云ってることも一理なくはないけど・・・
べ:おっ―――判ってくれるんだったら・・・
キ:だったら―――私たちハイランダーが、この戦の口火を切ってもいいわけなのね。
いいのかしら〜? 私のママーシャの「下り飛竜」だけでも半壊したと云うのに・・・
ママーシャとほぼ同等のチカラを備え出した私が、同時参戦したならどんなことになるか・・・
ヱ:―――・・・。
べ:い゛っ?!! ・・・って、こたあ―――
チ:(ヱリヤ様が、未だ持って沈黙を貫かれておられるのは、そう云う事からなのか―――?)
ノ:・・・ヱリヤ様―――
ヱ:何かね、ノブシゲ殿―――
ノ:もしやすると、それがしたちに気を使われて・・・
ヱ:フ・・・そう思っているのか、ならばそう思っていたまえ。
ただし―――コレだけは云っておこう、私を不完全燃焼のまま終わらせると・・・あとの八つ当たりの方がひどいぞ。
〔別段ヱリヤやキリエは、自分の味方に脅しをかけたわけではありませんでした。
早い話が、その場で述べられたことが、その種族の真実―――・・・
自らを「竜眷属」と称する者達の武力が、いかに並外れていたか・・・この軍議に出席した諸将に浸透したことは間違いなかったようです。
だからこそ、紫苑が提唱した案に、皆承服しないわけにはいかないのでした。〕