≪三節;驃騎将軍の命≫

 

 

〔ともあれ、軍は再編成され―――ヱリヤとキリエは、紫苑と同じく本陣に腰を据える形となったのでした。

 

しかも、取り分けキリエの立場は、以前とは異にしており―――彼女が、以前までは西部戦線において噂にまで立ち上った「蒼龍の騎士」だと判明すると、

その待遇はキリエの母であるヱリヤと同様になってしまったのです。

 

とどのつまり、紫苑は西部方面指揮統括権を持つ将であると同時に、人間たちの手に余る彼女たちを抑える役目をも負わされていた・・・

云ってしまえば、針の筵に座らされている心地―――か、と思えば・・・〕

 

 

紫:(よく・・・考えてみれば、今の私―――って、凄い人たちと席を並べているのよね・・・

  な、なんだか凄く緊張してきちゃっ・・・)

 

ヱ:全く―――余計なことを喋って・・・

キ:でも―――事実は事実なんですし・・・

 

ヱ:昔から「沈黙は金なり」って云うでしょうに。

  あのまま沈黙を保ち続けていたら、さぞかし私たちに同情が集まって、晴れて前線に―――

  また、それに託(かこつ)けて彼奴等を殲滅出来たものを・・・

 

紫:(で・・・え゛え゛え゛〜〜っ゛??!!)

 

キ:(ハ・ハ・・・何もそこまで脅さなくても―――)

ヱ:そう云うお前自身はどうなの―――お前のタワーリシチと、前線に立ちたかったんでしょう。

 

キ:・・・正直を云ってしまうと―――そうですね。

  でも・・・もう口から出ちゃったことなんですし。

 

ヱ:私が許可をする・・・出ろ―――

紫:(え゛っ・・・)って―――ヱリヤ様??

 

キ:・・・よろしいのですか、ママーシャ―――

ヱ:構わん―――なによりこれは、驃騎将軍としての命令だ。

  但し、お前は援護に徹するのだ、間違っても主力として闘ってはならない。

 

紫:あのっ・・・お言葉ですがヱリヤ様―――この方面の軍の指揮権は私に・・・

 

ヱ:解釈を―――間違えてはいけないよ、紫苑将軍・・・。

  私は、私の直属の部下である左将軍に命を下したまで。

  それ以上も、またそれ以下もない。

 

  ただ・・・正直なところを申し上げるに、今の私でさえ我慢の限界なのだ。

  本当は、直ちにあの場に赴いて、憎きカルマの兵どもを蹂躙し尽くしたい・・・そんな感情に駈られる一歩手前なのだよ。

  なのに―――そんな私と同じ感情を持つキリエの奴と一緒にいると、あ奴の感情にも中(あ)てられるところとなり、

  終には、私の我慢も溢れ出るところともなる。

 

  今の私の発言が・・・何を意味するものなのか、聡いあなたなら分かると思うのだがね―――

 

 

〔また一つ―――紫苑は解釈を間違えていました。

云わば、そこは「針の筵」なのではなく―――「爆薬の近くに火種」・・・

しかも、そんな危険なことを、然も軽やか・・・且つ、涼やかな顔をして物語る少女に、圧倒されていたのです。〕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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