≪三節;急襲≫
〔キリエの直属の上官である驃騎将軍が、作戦会議の席で自分たちが戦場に立つと云う危険性を説いた時、
配下の左将軍であるキリエもその意見には同調しました。
その結果、広められてしまったのは、以前から西部戦線において噂になっていた「蒼龍の騎士」の正体―――・・・
詰まる話し、パライソ軍の将兵に警戒をさせるのに、十分な効果だったのです。
―――と、そんな処に・・・〕
べ:おう―――キリエさん、ちょいといいかい。
キ:ベイガン―――どうしたの。
べ:いやな、このままちんたらとやっていたら、年暮れちまうからな・・・。
てなことでどうだい―――ここは一つ・・・
キ:急襲・・・でも紫苑殿には―――
べ:ンなこといちいち相談してたら、いつ受理されるか判ったもんじゃねえぜ。
それによ・・・こう云ったもんは、今はオレ達しか知らねえ―――だから効果があるってなもんじゃねえのかい。
〔キリエの片腕とも云える副将の虎髯将軍ヒ=チョウ=ベイガンは、国の内外に知られた猛将でした。
そんな彼が最も得意としていたのは、強引なまでの力押し―――
それが、こんな知略を使うとは、誰しもが思ってはいない・・・
だとすれば―――?
そこの処を鑑み、思う処もあったキリエは、自分の副将の言葉に耳を傾け、
急いでその場にいた者達で奇襲部隊の編成を組み、現在防備が手薄になっていると見られる三ノ丸東の御門前に集結したのです。〕
キ:―――それっ!かかれ〜!!
べ:へっへ―――おい野郎ども! 思う存分暴れな!!
〔奇襲・急襲の妙は、相手の虚を衝く処にある―――
思い立った時に行動に移した左将軍の挙動は、実は褒められるべき行為ではありませんでしたが、膠着していた打開点としては適切な措置とも云えました。
その証拠として、三ノ丸東の御門―――通称「真蔵門」は、瞬くの間にパライソ軍の軍門に下り、この状況によって一気に浮き足立ったカルマ軍は瓦解、
程なくして三の丸は陥落(おち)たのです。
・・・と、ここまでは幸先が良かったのですが、この事態によって得られたモノとは―――
益々防備を固め、二ノ丸から先は攻め難くなってしまった―――
このことには苦笑するしかない、ノブシゲとチカラは・・・〕
ノ:やれやれ―――こちらの陽動には、全くと云っていいほど乗って来なくなったな。
チ:この城を攻め続け・・・かれこれ三ヶ月目に入りますか―――
手早くワコウを陥落(おと)し、戦果を見せませんと・・・
〔意図的に、兵糧の輜重隊が前線に到着するとの情報を流しても、以前ならばそれに飛びついてきたモノだったのに、今回に限ってはそんな気配すらも感じられませんでした。
ノブシゲは、この流言によってワコウに立て籠もるカルマ軍を誘い出し、この攻防戦を優位に進めようとしていたようなのですが、
敵側の守将がこの陽動を看破していたものと見え、容易にその誘いには乗ってこなかったのです。
それに、チカラの言葉からも読み取れるように、この城を攻め出してから三ヶ月―――
キリエとベイガンの急襲戦が展開されたのが夏の中頃だったから、今現在は秋も深まりを見せ出してきた頃合いでした。
これがもし、膠着状態が長引くようなら・・・厳しい冬―――
しかも、城を攻める側としては、あまり望まぬ状況になりつつあるのに、憂慮しなくてはならなくなってきたのです。〕