≪四節;苛立ち≫
〔そして、その前線での膠着状態が耳に入ってきたのか―――
この時点までパライソの本陣に居座り、指揮官である衛将軍紫苑と共に、静かに戦局を見守り続けてきたあの存在が・・・〕
ヱ:紫苑将軍―――・・・
紫:あっ? は、はい―――
ヱ:陛下が・・・出師の表を出されてからどの位経つ―――
紫:六ヶ月・・・乃至(ないし)は七ヶ月経つものと―――
ヱ:そうか―――・・・
〔今まで、滅多と口を開かなかった少女が、急に何を思ったのか、側にいるワコウ城攻略の指揮官に訊ねました。
自分が仕える君主が、断腸の想いで布令した事案より、幾許(いくばく)かの時間が経ったのか―――と・・・
すると、不意を衝かれた紫苑は、正直に・・・有り体のままを述べました。
もう―――そんなに経つのか・・・
この度の戦の準備をするのに三ヶ月―――ワコウ城を陥落(おと)そうとしているのに三ヶ月・・・
思いの外時間が割かれている事態に憂慮したのか、ヱリヤは―――・・・〕
ヱ:―――≫「主の御名に於いて」≪・・・
紫:・・・えっ?! ヱリヤ様―――今、ナニを・・・
――≫「今日の我らの糧を」≪――
紫:え・・・えっ?? 今の声は―――キリエさん?
でも・・・今、彼女は―――
〔突然、自分のつけているアクセサリーを外し、口に宛(あて)がうと・・・何か呪文のような言葉を発し始めた―――
そのことに疑問を感じた紫苑は、ヱリヤに質問してみるのですが・・・
ヱリヤから返答を貰う前に、その場にはいないはずの人物の声が―――
そのことにさらなる疑問を生じさせ、今の一連の出来事はなんなのか・・・と、説明を求める紫苑がいたのですが。
そんな紫苑を余所に、母娘は会話を始め―――・・・〕
ヱ:何をしている・・・左将軍。
一向に城が陥落(おち)る気配がないではないか。
キ:>でっ・・・ですが―――奴らの抵抗は、思いのほか固く・・・<
ヱ:私は―――そんな言い訳を聞くために、お前を前線へと送ったのではないのだぞ。
キ:>・・・ぞ―――存じ上げております。<
〔何と云う事だ―――今、自分が置かれている境遇は、棺桶に片足を入れているようなものなのだ。
少女は、口数が少ないのではなく、ひどく機嫌を損ねている状況なので、口を開いてしまえば必ずや今のようなやり取りとなってしまう・・・
そのことを十分に承知していたからこそ、敢えて口を開かずにいたのだ―――
そのことを紫苑は、自らもその武勇を認めるあのキリエが、脅えた声でやり取りを交わしている様相で知ったのです。〕