≪三節;集中治療院(サナトリウム)≫
セ:(もしや・・・この方は―――??)あの・・・アヱカ様?
ア:・・・・それよりも、これからどこへ参るというのでしよう?
セ:・・・・はぁ、申し訳ございません、こちらです。
〔その時―――セキは敢えて深くを追求せず、この問題を先送りにしようと考えたのです。
そして、この侍中の一人が、アヱカを伴い連れて来た処というのが――――・・・〕
セ:――――・・・ここでございます。
ア:ここは―――集中治療院(サナトリウム)??
ここに誰が―――(はっ!)も、もしかすると、ショウ王様の身に何か??
セ:は? い―――いえ・・・閣下におかれては、お年を召されているだけであって、実に健康体であられますよ。
ア:(ほっ・・・)それでは―――― 一体どなたが??
セ:・・・・実は、あのお方のご子息なのです。
ア:(え―――?!!)ご・・・ご嫡息が??!
セ:そうです――――・・・ヒョウ君(ぎみ)、入りますぞ。
ア:(あぁっ―――!)
〔そこは・・・ウェオブリ郊外にある、閑静な佇(たたず)まいの建物―――それこそが『集中治療院』<サナトリウム>だったのです。
そう―――こここそは、主に重病人が入院をし、回復をするために治療を受ける処・・・
それであるがために、アヱカは思わず、老齢のショウ王が急な病に倒れ、ここに担ぎ込まれたのでは―――などと思ってしまったのです。
しかし、実は・・・ここに入院をしているのはショウ王ではなく、彼の息子=嫡流の・・・
ヒョウ=ボレアス=アレキサンダー・・・だったのです。
そして、その彼がいるという病室に入ってみれば・・・
自分―――アヱカよりもまだ若い・・・そんな彼が、鼻や口から透明な管を通され・・・
しかも、咽喉や胃の辺りから穴を開けられ、また同じように透明の管を通されていた者が―――・・・
そう・・・端から見れば、「半(なか)ば強制的に生かされている者」――――が、そこにはいたのです。
その様相を見てしまい、思わず目を覆ってしまうアヱカ――――〕
ア:(な・・・なんて惨(むご)い―――)
女:<本当・・・だな、これではまるで―――>
セ:ヒョウ君、お判かりですかな?
ヒ:(ヒョウ=ボレアス=アレキサンダー;23歳;男性;病床に就いている、この男性こそが、フ国の次代を担う者)
――――・・・・・・・
セ:・・・・この方は、本日あなた様をお見舞いにこられた、名をアヱカ―――と、申される方です。
ア:・・・アヱカ=ラー=ガラドリエル・・・と、申すものでございます・・・どうかご希望をお棄てになりませぬよう・・・
ヒ:・・・(ヒュ―――・・・・)・・・・・・・(ヒュ―――・・・・ヒュ――――・・・・)―――――・・・・
ア:(うぅッ・・・!)
〔何かしら、会話をなそうにも、それはまるで陸に上がった魚のように、口をパクパクさせているだけのものであり・・・
しかも時たまに、咽喉の管から空気がもれているような音が聞こえるとあっては、思わず顔を背けたくもなろうというもの・・・・
しかし、その事を知っているセキは、この国を継げる者が、このような状態にあることを知ってもらいたいがために、
アヱカを訪れさせたのであり・・・何も同情などを求めようとはしていなかったのです・・・・が――――〕
ア:セキ様・・・ちょっと―――
セ:はい・・・。
ア:どうして、この国の太子様がこのようなことに―――?
原因としてはなんなのでしょうか――――??
セ:それが・・・判らないのです。
目下のところ、医師団総がかりで看てはおるのですが・・・その原因の追究までは。
ア:そんな―――・・・
セ:まぁ・・・確かに、ヒョウ君(ぎみ)におかれましては、元々がお体の弱い方でしたが・・・・
それが今では、以前にも増して弱くなっておいでになる・・・こんな時に、公主様がお側におられたならば―――
ア:え・・・?公主・・・?(一体誰の事?)
セ:はい・・・歳の頃は―――そうですな、アヱカ様と同じくらい、お顔立ちもよくて、芯のしっかりした方でいらっしゃる・・・
ヴェルノア公国の、公主様でいらっしゃいますよ。
あの方は、歳の差もそう変わりはないヒョウ君(ぎみ)の事を気にかけて下された・・・・
年に一度は、このサナトリウムに足を運び、今のアヱカ様のように励ましのお言葉を投げかけられて下されたのです・・・
が―――ここ数年で、ヴェルノアのほうを出奔されたとか、されなかったとか・・・
よくないお噂を耳にするに及んで、ここにも来るのがぱったりと途絶えてしまわれたのです。
ア:そんな方が・・・いらっしゃったのですか・・・・。
〔「彼」―――フ国の太子の生命を蝕んでいるナゾの病魔・・・そして、ナゼこんな容態になるのかも、定かになっていない今―――
それと時を同じくして知るその存在――――「ヴェルノアの公主」・・・に、フ国の太子が孤独ではない事に、アヱカは安堵を覚えたのです。
そして、再び病室に入ったアヱカは――――〕
ア:(それにしても・・・なんてお可哀そうな、こんなとき、わたくしはどうしたら―――)
女:<なに、手立てがないわけではない。>
ア:(はっ!!)<じ・・・女禍様?!!>
女:<「全快」とまでは行かないけれど・・・現状より快方に向かえば、それでいいのだろう?>
ア:<出来る事であれば・・・全快させていただきたいのですけれど・・・>
女:<おいおい・・・カンベンしてくれないかな、私は名医ではないのだよ。>
ア:<あぁ・・・そうでした、でも―――このような重態から、よくなる方法があるのです?>
女:<あるさ・・・でも、それは何も『投薬』だとか、『手術』などというものではないんだ。>
ア:<えっ?? でも・・・それをせずして、快方に向かわせる手段など・・・・>
女:<それがあるんだよ・・・持ってきているだろう? キリエからもらった「アレ」を・・・・>
ア:<あっ!もしかして・・・・「鱗」??!>
女:<そう・・・先にキリエからの説明を受けたように、アレには人間達自身の『自己治癒力』『免疫力』を高める作用があるんだ。
それにね、『下妖』程度なら、討ち払える事も可能だしね。>
ア:<これに・・・そのようなことが・・・>
女:<じゃあ、それを・・・枕の下に入れてみて御覧・・・>
ア:<こう―――・・・ですか?>
・・・・あの、何もならないようなのですけど。
女:<何も付けてすぐに―――と、いうわけではないよ、徐々にさ。>
〔自身の内(なか)に入っている女禍様は、一つの手段として、以前にキリエから貰った彼女自身の『青緑色の鱗』付きの装飾品を、
この重病人の枕の下に入れてはどうか・・・と、提案したのです。
では、ナゼ彼女が、そのような事をさせようとした背景には、そのアイテムには、秘められた力が存在していた事に他ならなかったからで、
でもそれは、すぐに効果の現れるものではなく、徐々に効き目が出てくる類のものであると、諭されたのです。
そこで、根気強く待って見ることにしたアヱカは、今日のところは一旦引き上げる事とし、また日を改めてくる事としたのです。〕