≪六節;さらなる確執≫
〔そして―――アヱカが、無事花と水のやりかえを終えて、その花瓶を大事そうに抱え・・・
ヒョウの病室に戻ろうと、サナトリウムの廊下を歩いていたところ―――〕
リ:これ―――待ちゃれ―――
ア:(えっ・・・)あっ――――!
リ:ナゼ・・・・うぬのような肥溜め娘が、このような処におるのじゃ―――!!
ア:あっ・・・あの・・・わたくしは・・・・
リ:ええい―――黙らっしゃいッ!
うぬのような小汚い娘に、清潔さが第一のここを、穢されては敵わぬ―――!
ア:あ・・・ああ―――
リ:それに第一、この国の太子様がこれ以上身重になられたらどう責任を取るというのじゃ―――!
それが判ったのなら・・・とっとと出ていかっしゃいっ―――!!
ア:(くっ―――・・・)―――――――・・・・・。
看:(フフ――――・・・)
〔なんと・・・タイミング悪く、そこで鉢合わせになったのは、王后・リジュ・・・と、もう一人―――このサナトリウムの看護婦だったのです。
そして、ここでリジュは、アヱカを見つけるなり彼女を立ち止まらせ、そこから先・・・
つまりは、ヒョウの病室に入らせないようにするように、アヱカが持っていた花瓶を取り上げ、彼女に去るように促したのです。
そして・・・今まで以上に罵られ、言い辱められたアヱカは、こみ上げてくる泪をこらえながら、サナトリウムを後にしたのです。
(でも・・・このときでも、去り際に一礼を欠かさなかったのは、さすが―――と申しましょうか・・・)
こうして、アヱカの手から花瓶を取り上げたリジュは、何喰わぬ顔でヒョウの病室に入り―――・・・〕
リ:ヒョウ殿、お加減はいかがかえ―――?
ヒ:あ・・・っ、お継母上(ははうえ)―――その花瓶は? それに・・・アヱカさんは?
リ:心配なさりませぬよう・・・あなた様は、この国になくてはならぬ大事な身―――
あのような小汚(こぎたな)らしい小娘に、現(うつつ)を抜かしてはなりませぬ。
それに、あなた様には、もっとこう―――・・・身分それ相応の芳しい娘を、この妾の眼鏡に叶うた者だけを、娶(めと)らせましょうぞ。
ヒ:(え・・・)――――と、いうことは・・・帰したのですか? あんな・・・あんな性根の優しい方を、帰したというのですか?!!
リ:(ヒョウ・・・殿?)
看:(これは――――まずい・・・)ええ―――そうです、帰しました。
あの者は、善意を装って若君に近付こうとしていた疑いがかけられていた者ですから。
ヒ:そんな―――なんて事を・・・それになんだって?!
「善意を装い」・・・?一体誰がそんなことを―――・・・
それに、お前は何者―――・・・
看:私ですか―――? 私は・・・光禄勲・ボウ様より、今日からここであなた様のお世話をするよう、そう命ぜられた、
ユミィール=ケチャ=カナック―――と、言う者です。
それに・・・そのお噂は、宮中総ての官が口を揃えて申し立てていることですので・・・
リ:な―――なんじゃと?! うぬぅぅ・・・・っ、あの小娘が―――妾が甘い顔をしておれば、どこまでも入り込もうとしておるとは!!
ユ:(ユミィール=ケチャ=カナック;20歳;女性;少しばかり南方の血が混ざっているからか・・・小麦色の肌を持つという、ボウの飼っている・・・実は「忍」)
(フフ――――・・・)
リ:それよりも、若君には一日も早く好くなってもらわねば・・・・。
ささ―――これにあるは、妾が西国より取り寄せたお薬でございますぞ・・・一服飲んでみて下され。
ヒ:(薬―――)・・・・やだな、薬―――・・・
それに、以前服用したら意識が遠のいた事があって――――
ユ:若―――! なんて事をおっしゃるのです!
あなた様は、義理といえど母なるお方が苦心して手に入れて下さったモノを、「毒」とおっしゃられるのですか―――?!!
ヒ:い・・・いや―――そこまでは・・・
ユ:・・・・よろしい、結構です。
・・・ならば第三者のこの私が、代わりに試飲して差し上げましょう―――これで・・・どうです?
ヒ:判ったよ―――お継母上(ははうえ)、どうも嫌疑をかけてすまない・・・あとで必ず飲みますから、そこに置いといてください。
リ:おお―――そうか・・・では、必ず服用して下されよ。
ユ:(フ・フ―――)
〔これは――――病室での、ヒョウとリジュ・・・そしてユミィールなる看護婦のやり取り・・・
そして、ここでもリジュは、アヱカの事を蔑むだけ蔑んでおいたのです。
しかも・・・これからヒョウ専属の看護婦になるという、ユミィールまでもが、
『アヱカには、悪意を持ってフ国の王族に近付こうとする動きがある』・・・と、いう、あたら根も葉もない噂話をしておいたのです。
そして、次にはリジュが持ってきたという薬―――
これは・・・紛れもなく、西国はラー・ジャから取り寄せたという薬だったのですが・・・
皆さんは、お気付きになったでしょうか―――
あの・・・看護婦・ユミィールの、妖しいまでの弁解と――――最後の含み笑いを・・・・〕