<第百四十一章;破壊天使>
≪一節;生き物≠彼女≫
〔二人の智将が策の行き詰まりで頭を抱えていた時―――
その天幕を潜って内に入ってきたのは、タケルが擁する情報集団「禽」のリーダー格である・・・〕
婀:うん? どうしたのじゃ―――ナオミ殿・・・
そなたは仲間と一緒に、あの要塞内部へと潜入していたのでは・・・
〔大将軍であり、元帥であるタケルの良き妻である婀娜那が、この場に現れることはない存在の姿を見て、
組織行動ではない・・・単独行動をとっていることに訝(いぶか)しんだモノでした。
でも―――・・・その存在からは・・・〕
ナ:―――やっぱね、こう云うことだったんだ・・・。
昨日のタケル見てると、どうもいつもと違うからさ・・・それで、見て来い―――って。
婀:(「見て来い」・・・?)それはどう云う意味ですかな。
そなたの主はタケル殿であろう―――それをなぜ・・・タケル殿本人の前で・・・
〔何か・・・本来の主とは、別の主―――・・・
いや、もしかするとこちらの「別の主」の方が本来の主の様な云いまわし・・・
その事実に婀娜那の表情が怪訝そうになる前、ナオミからは衝撃の告白がなされたのです。〕
ナ:それは違うよ―――私の主は・・・いや、私の正統な所持者は、タケルじゃない・・・。
けれど、その正統な所持者の名を、今ここで明かすわけにはいかないんです。
なにしろ・・・私達の志半ば―――ってやつで、ね。
無礼だとは思いますが、そこの処は察してやってください。
〔それは、ここでも―――・・・
前回のユミエに続いて今度はナオミ本人までも、彼女自身には正統な所持者がついており―――いや、しかし・・・
そのことは人間を人間とは扱わない・・・まるで奴隷―――まるで物か道具―――のような表現であることに、天幕内にいた一同は眉を曇らせるのです。
けれども・・・そんな人間達の表情を見て、その存在は―――〕
ナ:・・・あれ? ―――どうしちゃったの・・・皆して・・・不思議そうな顔をして。
もしかして―――この私が、人間の女の子・・・だったと思ってた?
婀:そうであろう・・・妾には、どこからどう見ても、普通の―――・・・
ナ:・・・違う―――違うんだよ・・・公主さん。
私は、人間―――況してやカルマのような魔物・・・
いや・・・「生き物」ですらないんだ―――
婀:―――なんと?! すると・・・では・・・そなたは一体―――
〔衝撃の告白―――その存在自身が明かした事実とは、自分が「生き物ですらない」・・・と、云うことでした。
どうして―――・・・
こんなにも生々しく、汗や涕―――吐く息まで人間臭いと云うのに・・・
どうしてその存在が、人間ではないと云いきれたのか・・・
けれど、その理由としてはたった一つ―――
人間には決してない、「あるモノ」をナオミは有していたのです。〕