≪三節;ヱリヤ、エルムを問い詰める≫
〔一方、ジュデッカでは・・・
陥落した要塞の指令室の椅子に座り、ヱリヤがある想いに耽(ふけ)っていたのです。
そんな親友の様子を伺う為か、ヱリヤの顔を覗きこんだエルムは―――・・・
すると突然―――〕
ヱ:やはりおかしい―――! こんなことは普通じゃない!
エ:うわわっ・・・な、なんだよ〜〜――お前さまったら、急に驚かすんじゃないよ。
ヱ:シュターデン・・・お前、知っていることを全部話せ!
エ:はあ? な、なんなんだよ―――藪から棒にぃ。
大体私が何を知っているって・・・
〔ヱリヤが急に席を立ったかと思うと、傍にいたエルムに、身も蓋もない質問を吹っかけてきたのです。
そのことにエルムは、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になり、親しい自分に向って疑いを掛けている友に反論するのですが・・・
実は―――エルムは、今ヱリヤが一番訊きたがっていることなど判っていたのです。
けれど・・・父である大公爵から、あの夜にあった事を口外してはならない―――と、きつく云い遣っていただけに、辛抱のし処ではあったようです。
とは云っても、所詮それはエルムだけの事情なので、当然のことながらあらゆる手が講じられてきたのです。〕
ヱ:そうか・・・ならば話し易くしてやろう―――
まづ一つに、私が疑問を感じ始めたのは、私が娘のキリエと共に、私のママーシャが奉られている「奉竜殿」を詣でた時のことだ。
あの場所は、普通の人間では踏破出来にくくなっている―――そのはずなのに・・・最深部に安置されていた、
私のママーシャの魂を封じ込めた「ドラゴン・オーブ」が、その時に何者かによって盗まれた・・・と、云うものだ。
そして第二に、これはお前の方でも耳にしているはずだろう―――そう、北のドルメンである「ハーヴェリウスのラビリントス」のことだ・・・。
それに、噂だけを聞いて行くと、「奉竜殿」以前に踏破されたここも、丞相の魂を封じておいた「ヴァーミリオン」が、何者かによって盗まれていた―――と、聞く・・・
それに・・・あの方も云われていた―――「今後は敵として、戦場で見(まみ)えるかもしれない」と・・・
エ:そ、そりゃあ〜〜結構な確率であったもんだねえ? 偶然が・・・
ヱ:こんな都合のいい偶然が、立て続けにあってたまるものか―――!
それに・・・少しおかしいと思わないか―――
エ:ん? なにがさ・・・
ヱ:マエストロ様のことは、以前キリエやサヤ君からも報告を受けている―――「あれは絶対に丞相でした」と・・・な。
それに―――ここだ・・・ここでは、私のママーシャであるスターシア=ラゼッタ=アトーカシャが、或る技を使った余韻が感じられる!
これは・・・同じ種族でしか判らない、ある種の特徴の様なモノなんだ・・・
エ:―――え??
ヱ:まだ判らないのか?!
確実にあの二人は、この世に蘇っている―――しかも、今度は私達の「敵」・・・と、してだ!
それに・・・お前の態度にも、少し怪しい処がある―――
そうだ・・・女禍様が、この戦を決意される前の晩―――降雷の激しかったあの夜・・・!
「雷」は私のママーシャが持つ属性・・・お前は―――あの夜に私のママーシャに会っていたのだろう!!
〔まさに名探偵顔負けの推理で、自分が抱いていた疑問を解いて行くヱリヤ・・・
それにエルムは、内心ドキリとしたのです、それもそのはず―――図星そのものを衝かれてしまったのだから・・・
確かに、降雷の激しかったあの夜に、ヱリヤの母であるスターシアはエルムの屋敷に顔を出し、
そこで馴染みだったエルムの父、エルムドア大公爵と何やら話しを交わしていた・・・
そのことは事実だった―――の、ですが・・・その後、スターシアがエルム邸を去った後、エルムドアからよろしく口止めされていたのも、また事実でもあったのです。
しかも彼の口からは、今回のこの事実を知る者が口外をしてしまっては、カルマ内部で工作をしている者達の立場が危うくなる・・・
だからエルムは、自分の父から云われるがままのことしかできないでいたのです。
そうは云っても―――すぐに返答をしなければ、疑いの眼差しはいつまでも自分に向けられたまま・・・と、なるので、
程度の云い訳は、してみることにしたのです。〕
エ:それこそ考え過ぎだ―――って!
私だって、スターシア様とお前さまとの間柄はよく知っているつもりだよ。
だから・・・もし、知っているなら真っ先にお前さまに話す―――って!
ヱ:そうか・・・だが、なぜなんだ―――なぜ・・・ここからママーシャの技の余韻が感じられるのだ!!
〔大粒の涕を溢(こぼ)し、悔しさ余って机上を何度も叩くヱリヤ・・・
判らないことに苦悩する少女の態を見るのは、どこか痛々しさが伴うモノでした。
けれど・・・その事実を、今話すわけにはいかない―――もし話すのだとすれば、それはこの戦争が終わった後・・・
それでもし、自分の友が、自分が真実を語らなかったことに怒り、自分に罰を加えるならば、それは甘んじて受ける覚悟・・・
エルムは、そのことを承知の上で、自分の父から云い遣ったことを守り通したのです。〕