<第百四十四章;前夜>
≪一節;永き因縁の終結≫
〔カルマ防衛の要である二大要塞―――「マディアノ」と「ジュデッカ」陥落す・・・
その報は、援軍に向かった将自身により、なされた事実でした。
しかし、それが事実であれば、どんなにか落胆するだろうか・・・と、そう思いきや―――
殊の外、報告した本人達は、嬉しさ余って頬が緩みがちになっていたのでした。〕
ジ:―――あら、もう戻っていたの・・・ラゼッタ。
ス:お戯れを、マエストロ・・・。
私が、奴如きにそう幾度も後(おく)れを取ろうなどと―――・・・
そう云うマエストロも、べリアス相手にじゃれていたのではないですかな。
ジ:フフフ―――・・・さて、戯れはここまで・・・。
ジュデッカとマディアノに援軍として向かった、スターシアとジィルガの両名の帰還をもちまして、
ここにカルマ・・・いえ、「ブラック・ウィドウ」事実上の壊滅を宣言いたします。
〔いち早く一仕事を終え、仲間の生還を待ちわびていた龍皇・スターシアと・・・
そんな彼女から、僅か数画遅れで戻ってきたマエストロ・・・
そんな彼女たち二人の、任務達成の報告を聞いていたのは―――
なんと、カルマ総帥である魔皇・サウロンであり、七魔将一の実力者ビューネイだったのです。
しかし―――実に奇妙に思えるのは、今マエストロが声高らかに宣言したのは、カルマ国の母体となったある組織の壊滅の一報であり・・・
また、その報を聞いていたのは、その組織のNo,1・No,2だったのです。
ですが・・・マエストロが齎(もたら)した報を聞くなり、ビューネイは―――・・・〕
ビ:盟主様、お聞きになられましたか。
我らの大願―――成就いたしましたぞ。
〔途中から加わったスターシアやマエストロならまだしも、永らくその組織を根底から支えてきた古参の名将からも、
自分達が所属する組織が壊滅したことを寿(ことほ)ぐ言葉が紡がれました。
これ程異常で―――且つ、これ程異様な光景は、これまでにもなかったことでしょう・・・
それに、彼女達からの報告に、逐一耳を傾けていた漆黒の鎧からは・・・〕
サ:―――間違えちゃいけないよ・・・ベェンダー。
確かにウィドウは壊滅したかも知れないけど・・・まだ「けじめ」はついてはいないだろう。
〔今―――確かに、漆黒の鎧から絞り出された声は・・・女の声?
いや、そもその前に、魔皇であるサウロンは、女性だったのか・・・?
結論を早めてしまえば―――それは全くのNG・・・
それと云うのも、サウロン=カルマ=アドラレメクは、その前身をアベル=サラディン=アドラレメクと云い、
さある人物の高弟(こうてい)にして、あの女禍の想い人でもあったのです。
しかし、ある時期・・・地球の所有権を巡る争奪戦の最中に、自分達と敵対していたブラック・ウィドウに囚われ、
その首領である「ヱニグマ」なる人物によって洗脳を施され、挙句の果てには存在を二つに割かれてしまったのです。
しかもその際、存在意義(レゾン・デートル)の殆(ほとん)どを、アベルの「闇の化身」と云って差し支えないサウロンに奪われてしまい、
結果としてアベルは存在自体を消滅させてしまい、もう一人のアベルであるサウロンは、己の欲望のままに暴を振る舞い出していたのです。〕